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家族みんなで岡山市へ転勤。まちづくりのニューリーダーが考える、新しい価値を生み出すまちになるには

岡山市に秋がやってきました。岡山の秋といえば、行楽(後楽)の秋、読書(文学創造都市おかやま)の秋、そしてウォーカブルの秋!

「車中心から人優先の、歩いて楽しいまち」を目指してウォーカブル事業を推進している岡山市で、「ハレまち通り」の再整備や下石井公園の天然芝生化が実現し、歩いて楽しいまちになる舞台が整いました。

今回は、岡山市役所でウォーカブル推進を担当するニューリーダー、都市整備局都市・公園担当局長の鈴木豪さんに、岡山市のこと、マチナカの印象、まちづくりとは……さまざまな事柄について広い目線からの展望を伺います。


まちを愛するひとのインタビュー2024 その18
鈴木豪

鈴木 豪
2008年東京大学工学部卒業、国土交通省入省。道路局道路交通管理課ITS推進室道路交通情報係長、都市局都市計画課土木施設係長、三菱地所丸の内開発部(官民人事交流)、和歌山市役所産業まちづくり局都市計画部長、同都市建設局長、近畿地方整備局建政部都市整備課長、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 参事官補佐、国土技術政策総合研究所都市研究部都市施設研究室主任研究官、シンガポール共和国政府 都市再開発庁、JTCコーポレーション派遣を経て、2022年より国土交通省都市局 都市政策課 デジタル情報活用推進室企画専門官、2024年より岡山市都市整備局都市・公園担当局長着任。

ユーはなにして岡山市へ?

鈴木さんは今年7月に国交省から岡山市へ赴任してきました。漢文のようなプロフィールを紐解くと、国土交通省へ入省後、都市計画や再開発などのキャリアを経て三菱地所へ出向。そこから和歌山市役所でまちづくりに携わるなど、都市と地域、行政と民間を行き来するさすらいの仕事人、という印象です。

鈴木さん「もともと国家公務員で専門は土木です。地域の仕事は和歌山市役所で、市街地再開発事業や官民連携で面白いまちづくりにも携わりました。「硬いものから柔らかいものまで薄く広く」というのが僕のキャリアの特徴です。」

和歌山市では都市計画の見直しに加え、3つの再開発プロジェクトを開始。他にもホールや図書館の再整備にも着手。さらに和歌山市は小中学校の再編が終了し、廃校跡地に大学誘致をすることに。

地方都市のまちのありかたを深く考え、まちへ機能を実装していくプロジェクトを進める上で、特に心がけていたことを伺うと「出来上がったあとのことも考えること」だったそう。

鈴木さん「例えば、和歌山市立図書館の再整備は民間である三菱地所での経験も活かして、指定管理を任せたいなと思う業者さんへ「うちのまちの図書館を運営してくれませんか?」など営業に行きました。僕はスカウトしますが事業者の選定には関わらず、和歌山市が良い選択ができるよう舗装していった感じです。

何か新しいプロジェクトがあれば「わかりました」と引き受けて、とにかくやってみる。そういう姿勢でつねに臨んでいました。それに、僕自身もいい意味で「安請け合い」をモットーに(笑)。柔軟にまちづくりができたのは、いい意味で野放しにしてくれた和歌山市が大きいですね。当時の和歌山市が若手にやらせてみようという姿勢でした。」

和歌山市のまちづくりのお話で特に印象深かったのは、鈴木さんが民間と行政の接点を作ることに注力したこと。それは、行政はもちろん、民間企業に出向した経験のある鈴木さんだからこそ、垣根を超える大切さを和歌山市にインストールしたのではないでしょうか。

鈴木さん「直接的な成果を数字で表すのは難しいですが、少なくとも和歌山市の存在感を高めることはできたと思います。職員たちが外の世界を知ることで、新しい視点や発想が生まれました。これは長期的に見ればまちづくりに大きな影響を与えると信じています。」

2020年に誕生した複合施設「キーノ和歌山」。充実した図書館や展望露天風呂が人気のホテルも併設。新しい和歌山のランドマークに。(写真提供:和歌山市)

岡山市のポテンシャルを活かすためには「みんなと関わる」

愛知県生まれ、東京経由、和歌山や大阪、シンガポールまで。多様な規模のまちで暮らし、仕事をしてきた鈴木さんに岡山市の印象を伺うと「岡山はすごい」と絶賛!

鈴木さん「岡山は本当にポテンシャルが高いです。まず地理的優位性。岡山は山陽道の要所にあり、四国や山陰の玄関口。関西や九州にもアクセスしやすい。日本有数の好位置のまち。地形的にも優れていて、海も山も川もあり、なによりとにかく気候がいい。

そして岡山の強みは、その位置関係だけでなく、周辺環境にもあります。近隣にそれなりの規模のまちがある。これは単に人口を吸収するという意味ではなく、地域全体の豊かさにつながっています。

例えば、瀬戸大橋を渡ってすぐ隣のまちに行けるなどアクセス良好です。こうした環境は、人々の交流や経済活動を活発にする上で非常に重要な要素なのです。」

地理的優位性、暮らしよい気候、利便性。わたしたちが普段なにげなく享受しているものは、はたからみる、とても恵まれていること。外から来たからこそ、岡山の豊かさを鈴木さんは解像度高く教えてくれます。

鈴木さん「けれど、これだけあれば十分というわけではありません。重要なのは、この優位性を活かしつつ、人々の交流を促進し、地域全体の魅力を高めていくことです。交通の要所という特性を活かし、ビジネスや文化の交流拠点としての機能を強化することも有効でしょう。

さらに、地域独自の文化や産業を育てながら、外部からの人材やアイデアを積極的に取り入れていく姿勢も重要です。つまり、「ここに住む」というだけでなく、「ここで、みんなと、関わる」という多様な関係性を創出していくことが、岡山市が次のステップへ行くために不可欠だと考えています。」

ゴミ拾いとコーヒーを飲みながらおしゃべりを楽しみ、まちに顔見知りを増やすことを目的としたイベント。下石井公園の「Cleanup & Coffee Club」

今の岡山市は、いわばただの「住みやすいまち」。恵まれた優位性を「与えられたもの」として受動的に捉えるだけではなく、積極的に活用し、分かち合う姿勢。それが「新しい価値を生み出すまち」へと進化していくために不可欠だといいます。

鈴木さん、岡山の中心市街地・マチナカについて、特に印象的な点はありますか?

鈴木さん「マチナカに若い人がたくさんいるなぁと思いました。単に人口統計上の数字だけでなく、実際にまちを歩いていて感じる印象として若い人がすごく多いんです。この感覚、わかりますか?

東京でさえこれほど顕著には感じられないかもしれません。普通に、まちを歩いている若者が多いんですよ。商業施設だけでなく、マチナカに若者がいるんです。あと中高年やお年寄りもすごく元気です。高齢化で苦しんでいるようにはまったく見えないまちです。

正直、なぜみんなそんなにまちに出てきているのか、僕にはまだ解明できていません。これは本当に興味深い現象です。」

鈴木さんは「確固たる仮説は立てられていませんが」と前置きしますが、少子高齢化が進む地方都市でこれは非常に重要な印象だと感じます。この現象を解明できれば、ウォーカブルシティに向けて、「にぎわい」を維持・拡大するための、たくさんの新しいアプローチが生まれる可能性があるからです。

人々が行き交うハレまち通り。

鈴木さん「岡山はポテンシャルも高いし、あらゆる面で余裕があるまちですが、「その先」がまだ不明瞭かもしれないですね。小さなエリアを見たときに「このまちはこうなりたいんだな」みたいなのが、まだはっきりしてない感じです。

岡山市、とくにマチナカは、毎週末どこかでイベントをやっていて市民活動が盛んというのはこのまちのいいところだと思っています。みんな疲れないのかなって思うくらい(笑)。エネルギーがあるなって思います。それだけまちのプレイヤーが多いってことの証明でもあります。

けれど、人を集めることだけがまちづくりとは言えません。地域の文化を発信することや、地元の人たちが交流する機会を作るとか、人々の日常生活をどう豊かにするか、地域の特性をどう活かすか、そういうことを考えながらやっていく必要があるんじゃないかと思っています。」

それがマチナカの個性の創造と経済活動がスパイラルアップしていく仕組みになっていくのだと鈴木さん。

鈴木さん「まちの個性とは、単純に岡山城や岡山後楽園などわかりやすいランドマークだけじゃないと思っています。それはそれでシビックプライドの対象としていいんですけど、それらを推すシチュエーションって限られていますよね。

例えば、移住先を探している人に対して、まちの良さを語るとき、「後楽園があるよ」とは言わないでしょう。むしろ「いい図書館があるよ」や「学校が充実しているよ」っていう気がします。

そういう、暮らしに根ざした場所や事こそが、大事だと思うんです。そこで活動があったり、その場所との個人的な関わり方があったりすると、よりまちに愛着が湧くんじゃないでしょうか。その愛着をもっとつくっていくことが岡山に必要かなと。」

もうひとつ、岡山のまちが育っていくために必要なことは「外部評価」と鈴木さん。

鈴木さん「自分たちで想うことも大事なんだけど、やっぱり外の人から「いいね、岡山」って言われて、より良さを実感するのではないでしょうか。今日、僕がみなさんにお話しているように。」

外部評価を受けるということは、ネイバーフッドだけでなく、他所から来たひとたちの意見に耳を傾けることが必要になります。関わるひとが増えるほど、まちを愉しく使っていくためのお作法=ルールが必要にもなってきます。

鈴木さん「行政の立場ではルールを守っていただくことはすごく大事だと思います。でも、楽しいルールの守り方とか、誰も排除しないルールの作り方というのも考えていく必要があります。

僕たちの仕事は、ルールを守らせることだけでなく、ルールを作ったり、変えたりすることも大事な仕事なんです。皆さんが思っているより僕はルールを変えたい側です。「また局長が変えろって言っている」と思われるかもしれませんが(笑)そういうものだと思っておいてください。

例えば公園の管理やストリート活動などは、カチッと決められたルールで運用するものではありません。ルールやマナーって、「みんなの違い」を調整するためのものですよね。だからみなさん次第なんじゃないでしょうか。

みなさんに関わって、自然と共通理解ができるものをインストールしていくべきかなと思っています。」

下石井公園も、マチナカの人たちが居心地良く過ごせるルールを考え中。

鈴木さん「そして、関わり方にはグラデーションがあっていいと思います。むしろ、そのグラデーションがあるのが自然なんです。例えば、お祭りで神輿を担ぐ人もいれば、見物客もいます。でも、見物客だって参加者ですよね。

東京タワーを作った人だけでなく、観光客も参加者です。何もしていないように見える人たちも、実はとても大切な役割を果たしているんです。」

みんなが「憧れるまち」にしたい

まちが成熟するための伸びしろがある岡山市。鈴木さんはそんな岡山市のまちづくりに携わる上で「憧れ」というキーワードを大事にしたいそう。

鈴木さん「ハレまち通りや下石井公園など、岡山の特定の場所や地域が「憧れの場所」になるといいなと思います。出かける時に「あそこに行こう」と思えたり、岡山の暮らしを象徴していると思えたりする場所です。

何度でも言いますが、岡山の暮らしは最高だと思っています。海や川があって自然豊かで、スーパーマーケットでは何でも新鮮で安くてうまい。毎週末、子どもたちに美味しい桃やぶどうを食べさせてますが「贅沢させすぎた」と反省しているくらい(笑)。

マルシェ文化が盛んなところも素晴らしいですね。地元の食材に触れる機会がたくさんあります。僕は特に岡山の豊かな食材を活かした新しい食文化の可能性を感じています。それは上質なライフスタイルにも応えられるまちになる可能性があるということ。特に大都市と比べると、その良さがよくわかります。」

“おいしい”をみせあうマーケット「ハレマ FARMERS MARKET」で売られる、旬の野菜。
下石井公園にてインタビュー。平日にもかかわらず賑う公園にほっこりする鈴木さんでした。

鈴木さん「僕自身、岡山市に家族と一緒に引っ越して岡山市民になりました。このまちに当事者としても、関わり良くしていきたいというモチベーションがあります。

まちづくりの仕事は、手の届く範囲の仕事が目に見える形でできるのが魅力です。僕も行政として地に足のついた仕事ができればと思っています。そもそも、国土交通省に入省したのは、僕の、身体も考え方も、全て社会のものだという考えから来ています。

そして、地域に密着した仕事をすることは、僕の感性に合っているんだと思います。みなさん、ぜひまちで僕を見かけたら話しかけてください。夜のまちへ飲みにも行きたいです(笑)。どんなことでもご相談いただけたらと思います。 」

「当事者としてまちに関わっていく」。そんな力強い言葉を最後にいただきました。

まちづくりとは、人々の暮らしに直接関わり、目に見える形で変化を生み出せる営み。それがまた自分や自分の大切なひとの暮らしにつながっていく。

「まちで面白いことをやって、みんながハッピーになることが僕は好きなんです。」そんなふうに想い、まちに関わる行政マンがいる心強さを感じました。

行政が手がける公共のアップデートがあり、その舞台でまちの当事者たちが愉しみながら多種多様と交わっていく。

その前向きな試行錯誤が、岡山のマチナカらしさとして積み重なっていったらいいなと思いました。

Text:アサイアサミ(ココホレジャパン)
Photo:宮田サラ(まめくらし)

聞き手:アサイアサミ
編集者。東京生まれ東京育ち岡山暮らし。出版社の雑誌編集などを経て、2012年に岡山へ移住。地域の魅力を広告する会社「ココホレジャパン」を起業。紙媒体からコピー(言葉)、Web、写真、映像など、表現方法にとらわれず、社会を変革する良き事象を愛ある編集で情報発信を担う。竹中工務店とコラボして木のまちをつくる「キノマチプロジェクト」編集長、「ハレまちの暮らしかた研究所」など。