夢は岡山を日本一ひとと動物が暮らしやすい地域にすること。やさしくてイケてるまちを目指す「ハレ犬」プロジェクト始動!
みなさん、岡山市って、とーーーーーっても動物にやさしいまちだってご存知ですか?
2017年から7年間、犬・猫の殺処分ゼロを継続中。2020年からは池田動物園の協力で保護した野犬の人馴れ訓練をして、飼育が困難な野犬も新たな飼い主へ譲渡できるようになりました。
環境面でも、市街地のすぐそばに広い河川敷があり、道幅が広く、市街地に自然も多いので散歩コースに事欠きません。マチナカでも犬がお散歩する姿を良く見かけます。
一方で、課題もあります。例えば、公園でのマナーの問題。排泄物の始末や犬が苦手な人への配慮など、まだまだ改善の余地ありです。
「世界で最もドッグフレンドリーな都市ランキング」ではアメリカのポートランドやフランスのパリ、フィンランドのヘルシンキなどがランクインしており、魅力的なまちは犬にもやさしいことが伺えます。
歩いて楽しい岡山市を目指す私たちは、犬もひとも散歩しやすいウォーカブルな岡山市にしたい!自然な形で互いの存在を喜び合うには「ルール」と「しつけ」が必要です。
そこで、ドッグトレーニングイベント「ハレ犬(ハレケン)」を、2024年12月7日(土)と2025年3月1日(土)に下石井公園で開催します。ふかふかの天然芝生で、プロフェッショナルたちがしつけ教室やトレーニングを開きます。
そこに関わるのは「やさか動物病院」の院長であり獣医師の大石太郎先生、岡山市保健所の丸山稔さん、そして「言い出しっぺ」の愛犬家、マルゴデリの平野裕治さんの御三方。ひとと犬に優しいジェントルマン達から今回のプロジェクトについてお話を伺います。
まちを愛するひとのインタビュー2024 その19
岡山の暮らしに動物の存在が溶け込んでいない
大石先生は「岡山を日本一、ひとと動物が暮らしやすい地域にすること」が夢だといいますが、現状はどうでしょうか?
大石先生「例えばフィンランドでは普通に犬が街の中の暮らしに溶け込んでいます。お店の入口などで買い物している飼い主をラブラドールが待っているんです。しかもノーリードで。すごく印象的でした。
岡山ではそういった光景はまだまだ珍しいですよね。やはり動物嫌いの人は一定数いらっしゃるんです。大体、3人に1人ぐらいは動物が嫌いというか、わからないから怖いという状況です。実際に生活の中に動物が溶け込んでいないからという視点もあると思うので、そういった風景をまず変えたいと思っています。」
そこで大石先生は病院のそばにドッグランをつくりました。カフェを併設するなど、ひとと犬が遊べるような施設や場所を少しずつ増やしていきたい、「犬が遊んでいる風景をつくりたい」そんな想いだったといいます。
そして、今回「ハレ犬」のイベントで大石先生は「犬を飼育するにあたって知っておいて欲しい事」というテーマでしつけ教室を行います。
大石先生「僕ができることは、獣医師として、犬の飼い主さんたちに知っておいてほしいことを伝えたいと思っています。ひとと動物の関係性として、やはり一定数、嫌いな人もいるんだよということを認識した上で、いい形でお互い共生できるようにしていきましょうという話をしたいと思っています。」
大石先生はこの取り組みを単なる動物保護としてではなく、まちづくりの一環としても捉えています。「マチナカでしたら、西川沿いを歩いて、下石井公園で休憩できるような散歩モデルコースを作るなど、ひとと犬が一緒に楽しめるまちにしていきたい」とも話します。
いろんなひとがいる岡山で、ひとも動物ものびのびと生きていくためにできることがある。そして、動物も幸せになれるまちはひとにとっても住み心地のよいまちになる。そんなメッセージを受け取りました。
また、犬を飼ったり、動物がそばにいると思わぬメリットがあるのだとか。
大石先生「最近出たデータでは、ひとは犬と見つめ合うとオキシトシンが出てリラックスします。精神的にも落ち着く効果があります。犬を飼育すると圧倒的に健康寿命が伸びるというデータも出ています。
犬と暮らしていると、やっぱり飼い犬のためにこういう風に動かないといけないという気持ちが働くんですよ。散歩に行ってあげないといけないな、ご飯あげないといけないな、じゃあ朝早く起きようとか。それだけで生活が整いますよね。」
ウェルビーイングにも寄与する犬との暮らし。ひとと犬が共生しやすいまちになったら、岡山市民の平均寿命も伸びる⋯⋯!?理想的なウォーカブルシティは、犬と共存できるかがポイントかもしれません。
岡山市を「動物を殺さないまち」にする、保護犬活動
そして岡山市は犬・猫の殺処分ゼロのまち。動物を殺さず暮らせるまちに住んでいることは市民として誇らしい気持ちがします。
岡山の保護犬は、捨て犬よりも山林などで自然繁殖した野犬が主です。岡山市が犬の殺処分ゼロを達成している要因のひとつとして、野犬を保護し、人に馴れさせて一緒に暮らせるように訓練し譲渡する取り組みがあります。
岡山市保健所の丸山稔さんは2018年から野犬の保護活動に携わっています。池田動物園の「ZOOねるパーク」と協働し、年間200頭以上の犬を保護。保護犬にトレーニングを施しています。
丸山さん「保護された犬は早い子で1週間から2週間で人に馴れていきます。早く馴らして、譲渡につなげていくことが大切です。私自身もボランティアとして一時預かりを行っています。」
丸山さんらの尽力により「野犬を飼う」という選択肢がある岡山市。けれどやっぱり野犬は怖いイメージが付きまといます。
丸山さん「そうですよね。トレーニングの取り組みを行う前は、一般の方に野犬を譲渡することはほとんどありませんでした。けれど動物保護団体にも受け入れに限界があります。家族として野犬を迎え入れてもらえるよう、野犬をトレーニングすることと、この取り組みをもっと知っていただくことが大事だと思っています。」
保護犬のトレーニングは思った以上に成果が出ているようで「トレーニングしてもうまくいかなかった子はほとんどいません。必ずどこかで進歩が見られます」と丸山さんは教えてくれました。
「ハレ犬」プロジェクトでは、このようにトレーニングされた保護犬を家族の一員に迎えようという市民や、すでに飼っている犬のトレーニングをして、まちやひとにフレンドリーな犬&飼い主を増やしていきたいという思いもあります。
大石先生「犬はチンパンジーよりも賢いという研究データもあります。特に人との相互関係において、驚くべき能力を持っています。出身は野犬でも、遺伝的な性質が合い、トレーニングの効果が出ればスムーズにひとと共存できる可能性はあると思います。」
丸山さん「あと、岡山市で保護された元野犬を譲り受けた飼い主が犬の遺伝子を調べたところ、半分ぐらいは柴犬の血を引いていることが分かったんです。だから柴犬のようなかわいい顔をしていました(笑)。
保護犬たちの地域性も面白くて、育った地域によって顔つきが違うんです。特徴が異なります。」
平野さん「それ、保護犬をブランド化できるかもしれませんね。『やさか系』『操山系』といった感じで。その地域ならではの特徴として打ち出せば。」
大石先生「そうですね。ただ単に『保護犬』『野良犬』という言い方ではなく、その犬たちの持つ魅力や特徴を活かした新しい価値観を作っていけたらいいですね。」
平野さん「では、岡山の保護犬はハレの国生まれの「ハレ犬」と呼びましょう!目指せ、秋田犬級の知名度(笑)。
自然が豊かで、人の温かさも残る岡山だからこそ、新しい形のひとと動物の共生が可能だと僕は思うんですよね。
ハレまち通りのマルゴデリも「1メートル活用」でオープンカフェになっているので、お散歩途中にわんちゃんと立ち寄ってくれたら嬉しいですね。僕らが運営している「ハレマ FARMERS MARKET」も、もちろん犬連れOK!そういう場所をもっとマチナカにも増やして行けたらいいなと思っています。」
大石先生「動物嫌いの人を変えようとするのではなく、まずは好きな人、興味のある人たちが楽しめる環境を作る。そこから少しずつ輪を広げていければいいなと思っています。」
丸山さん「犬のことを大切に考えてくださっている一生懸命な方々の思いを大切にしながら、もっと気軽に関われる入口も作っていく。そのバランスが大切ですね。」
平野さん「もっと気軽に、例えばコーヒーを飲みながら犬たちと触れ合える、そんな場所があってもいいと思うんです。そこで思いがけない出会いが生まれるかもしれない。運命の出会いの演出も、実は大切ですよ。」
ひとと動物の新しい関係性を模索しながら、まちそのものの価値を高めていく。「ハレ犬」プロジェクトは、単なる動物保護の枠を超え、新しい文化の創造へとつながっていることを確信しました。
それは、今回のインタビューの際、いつものインタビュー現場に比べ、みなさんがリラックスしてお話してくださった様子があまりに素敵だったから。
優しげな瞳をうるうるさせ、お話する飼い主を落ち着いた様子で一途に見つめるわんこたち。彼らがこの笑顔に溢れる現場をつくってくれたように思います。このラブ&ピースな空気感をまちにもインストールしたい!
犬を飼っているひとも、飼ってないけれど気になるひとも、犬が大好きなひとも、苦手なひとも、ぜひ、2024年12月7日(土)と2025年3月1日(土)は下石井公園に遊びに来てください。
Text:アサイアサミ(ココホレジャパン)
Photo:宮田サラ(まめくらし)
聞き手:アサイアサミ
編集者。東京生まれ東京育ち岡山暮らし。出版社の雑誌編集などを経て、2012年に岡山へ移住。地域の魅力を広告する会社「ココホレジャパン」を起業。紙媒体からコピー(言葉)、Web、写真、映像など、表現方法にとらわれず、社会を変革する良き事象を愛ある編集で情報発信を担う。竹中工務店とコラボして木のまちをつくる「キノマチプロジェクト」編集長、「ハレまちの暮らしかた研究所」など。