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「岡山の水辺をもっと面白くしたい!」水辺活用の第一人者、水辺総研・岩本唯史さんと考える、岡山らしい水辺をつくる方法とは。

今回は特別企画として城下町(しろうち)エリアを考える「岡⼭しろうちPUBLIC Meeting」と共同で、マチナカの⽔辺をフカボリするトークイベントを2部制にて開催。旭川のほとりにある石山公園で公開インタビューを開催しました!

「しろうちエリア」は石山公園をはじめとした旭川流域。岡山を代表する観光地であり、マチナカの暮らしを潤す水辺エリアです。

石山公園から岡山城と岡山後楽園を望める。

旭川といえば穏やかで水量も多い豊かな一級河川。市民は桃ボートやカヌーでアクティビティを楽しんだり、「京橋朝市」をはじめとした川を起点としたイベントなどが行われています。

けれど、岡山らしい水辺活用がもっとあるのではないか?と、「しろうちアライアンス」代表理事の久山信太郎さんは言います。そこで、水辺活用・水辺のまちづくりといえば日本全国の水辺で創造的な協働や連携を促してきた水辺総研の岩本唯史さんをお呼びして、岡山の水辺をとことん話し合いました。

岩本唯史(Tadashi Iwamoto)
ミズベリング・プロジェクト ディレクター/水辺荘共同発起人/建築設計事務所RaasDESIGN主宰
建築家。一級建築士。国交省のミズベリングプロジェクトのディレクターを務めるほか、全国の水辺の魅力を創出する活動を行い、和歌山市、墨田区、鉄道事業者の開発案件の水辺、エリアマネジメント組織などの水辺利活用のコンサルテーションなどを行う。横浜の水辺を使いこなすための会員組織、「水辺荘」の共同設立者。東京建築士会これからの建築士賞受賞(2017)、まちなか広場賞奨励賞(2017)グッドデザイン賞金賞(ミズベリング、2018)

久山信太郎(Shintaro Kuyama)
1978年岡山神社の宮司の家に生まれる。大学から東京に行き、米国留学、大手メーカーで経理職を経験。自転車で世界放浪などを経て2010年に帰岡。神社で音楽祭や蚤の市を開催し、新たな神社の役割を模索。2016年より岡山神社宮司。まちづくり会社、カタマラン(株)代表取締役、一般社団法人旭川しろうちアライアンス代表理事

岡山のマチナカはその昔、水都だった

今回のテーマは「岡山の水辺」。岡山のマチナカの日常には、一級河川「旭川」と、西川緑道公園をはじめとしたまちなかに張り巡らされた用水路があります。

久山さん「岡山は水辺が非常に豊かではあるんですけれども、規制があったり、どういう風に水辺を使っていいのかがわからなかったり、まだまだ市民が自由に使えるような状況ではありません。

岡山のマチナカは、宇喜多秀家が岡山城を築城したことがはじまりですが、その頃のマチナカは今よりもさらに水路が張り巡らされていました。それは、防衛のためだったり、水運のためだったり、日常を過ごすためのものだったといいます。

僕の夢は、かつて水都だった岡山をもう1度、水辺をまちの魅力として使っていけたらなと思っています。そこで、岩本さんに岡山の水辺を活性化するためのアイデアなどをお聞かせいただけたらなと。」

岩本さん「ぜひぜひよろしくお願いします。ちなみにいま、岡山の水辺はどんな活用をしているんですか?」

久山さん「僕自身は、ランニングチームを結成し、朝の6時半に石山公園に集合して、旭川から後楽園周辺を走ったり、すぐそこの鶴見橋の手前の堤防でマーケットを開催するなど、水辺周辺で活動しています。

そして、『遊覧クルーズ』旭川河川敷から遊覧船が本格運用されました。貸し切りもできます!これはマチナカの名物になるんじゃないかなと思っています。

あと、カヌーパークですね。旭川や瀬戸内海など岡山周辺でカヌーをしています。」

ENGAWAマルシェ。

久山さん「岡山には『旭川かわまちづくり計画検討・推進会議』という団体があり、水辺を使いたい人が使えるようなしくみづくりをする団体にできたらいいな、と思っております。

僕の知り得る感じだと、大阪などは『水都大阪コンソーシアム』っていう団体があって官民共同で活動しています。岡山の『旭川かわまちづくり計画検討・推進会議』もそんなふうに活動していけたらいいなぁと。」

岡山市民は水辺を楽しみたい、そして楽しませたいというポテンシャルがある。けれど、水辺という『公共』を使うには、さまざまな規制があり、『楽しませたい』側が、誰に相談していいのか、わからない状況があると久山さんはいいます。

岩本さん「僕も、元々、川の専門家でも土木の専門家でも全然なくて、僕自身が水辺の超ド素人から始まって、そこから好きが高じて、こういう水辺の仕事をやらせていただいています。

私が今、久山さんのお話を聞いて思ったのは、若干辛口なんですけど(笑)『どこでもやってるよね』じゃないですけど、水辺といえばこういうことやってるよね、みたいなことは岡山の水辺であらかた行われている印象です。

岡山の水辺だからこそできることをやらなきゃいけないんじゃないかなと思うし、あと、誰のための水辺なのかを考えたいところですね。水辺っていうのは公共なんですけど、岡山市民も観光客も、みんなが岡山の水辺を「私の水辺」って思える水辺ってどんな水辺なのかと。」

世界の水辺は「民間」がつくっている

そして、岡山の水辺のことを深く考える前に、世界の水辺はどんな活用をされているのか、世界の水辺トレンドを岩本さんに紹介していただきます。

まずはアメリカ・ニューヨークにあるハドソン河の水上公園「リトルアイランド」。埠頭跡を活用できないかっていうことでできた小さな島の公園です。米メディアグループ、IACインタラクティブコープのバリー・ディラーと、ファッションデザイナーのダイアン・フォン・ファステンバーグ夫妻が私財約290億円を投じてつくられたニューヨーク市民の新たな水辺です。

岩本さん「もちろん話題のスポットになっています。公共の場所であっても、こうやって私費を投じることは世界中で行われていることではあります。」

あと僕が、おったまげたのがこれです。オランダのアムステルダムの『デ・クーベル』という場所なんですけども、昔の造船所の跡地ですね。しばらく放置されていたので、船からの重油などで土壌汚染なども進んでいた場所でした。

市役所が所有していた土地だったので市役所が再生プロジェクトを民間に公募したんですよ。そこに挑戦したのが、大手デベロッパーでも大手ゼネコンでもなく、僕とほぼ同世代の建築家集団でした。

彼らのアイデアは、土壌汚染もあるところに建物を建てるのはめちゃお金がかかるんで、それなら建てなきゃいい。元から置いてあったハウスボートをオフィスにアップサイクルしたんです。」

アップサイクルした船のオフィス
「デ・クーベル」のカフェ

岩本さん「また、土壌汚染された土の汚染物質を吸い上げる特別な植物を植えて、その草を刈り取ることで土壌汚染を改善していくという壮大なプランを描きました。こうして、いま話題のサーキュラーエコノミーの拠点にしたんです。

すると、ここが循環型社会の最新モデルケースとしてアムステルダムがサーキュラーエコノミー先進国として世界にプロモーションするようになったんです。プロモーションしていく情報価値と実際にできた空間のユニークさによって、めちゃくちゃ面白い場所になりましたね。」

アムステルダムの水辺は楽しい場というだけじゃなく、環境を考えることで世界のトレンドに乗り、場の活用そのものが国を代表する世界的なプロモーションになっていった事例です。

岩本さん「場を生み出すってことは、出来上がった空間と、空間にどんな価値があるかっていうのを認知をするっていうことです。そういったところに目を向けるっていうのもとても重要なんです。」

ちなみに筆者自身「岡山ってどんなまちなの?」って訊かれると「日本のアムステルダムです」とよく言います。旭川の豊かさはもちろん、実は岡山市って有数の用水路が張り巡らされたまちでもあります。

住宅街にも用水路があり、日常的に親水できるのが岡山のマチナカ

岩本さん「アムステルダムの水路の特徴って、手すりがないんですよ。何故かとアムステルダムの人に聞きますと、アムステルダムは自転車社会だから、手すりがあると自転車を駐輪して鍵をつけちゃうから、手すりをつけないそうです。

あと、着衣水泳を小学校で必ず教えるんだそう。服を着た状態で泳げるようにして、フェンスを作るコストを減らしてると(笑)。落ちても泳げれば危なくないって、めちゃ面白くないですか?」

日本の水辺は「みんな」でつくっている

世界の事例を伺うとやはりアイデアは民間=市民から出てくるのだなと感じます。

公共だから、市役所の仕事だ、などまちのせいにするのではなく、面白いことは自分たちでやろうっていう動きこそ水辺に必要なのだと感じます。

たくさんの方に見守っていただきながら議論が白熱していきます。

岩本さん「僕らは長年、消費者として生きることのほうが断然多くて、いまあるサービスを受益するってことがあたりまえになっています。でも、サービスがないところは自分で作るしかないじゃないですか。

日本の水辺とか水の上って今はなにもないから、自分で作んなきゃいけないんですよね。それって、ブルーオーシャンというか、だいぶ楽しいことなんじゃないかと思って僕はずっと水辺に関わっています。」

久山さん「水辺が使えるようになるとエリアの価値って上がりますか?」

岩本さん「上がります。大阪の事例で北浜っていうエリアなんですが、昔の証券取引所などがあった場所なんです。けれど、いまはリアルで証券取引なんてしないじゃないですか。まちにオフィスとかいらなくなりました。なので土地の価値がどんどん下がって、まちの利用者がいなくなったとき、川沿いの規制緩和をしたことで、証券取引所関係だったオフィス街が魅力的な飲食店街に変わったんです。」

しかし、元を正せば、もっと昔の大阪・北浜は料亭のまちで、船で大阪の旦那衆が遊びにきて水辺を楽しむみたいな文化があったそうです。それが廃れて証券取引所になって、再び水辺をフックに人が集まり、場所の役割が変わる。北浜は水辺が変わったことで、まちも魅力的になりました。

水辺が変わればまちも変わる。またその反対も然り。その変容を体現している大阪市・北浜。

岩本さん「岡山の水辺活用で、僕的に参考にするのは新潟県新潟市などいいと思いますよ。

新潟市内のマチナカに信濃川という川があって、信濃川は河川改修をして、傾斜のある川を作ったんです。そして『やすらぎ堤』という場ができて、新潟市の水辺利用が一気に動き出したんです。」

ひろびろとしたやすらぎ堤。奥がまちの中心にある八千代橋

岩本さん「まず、河川事務所と新潟市が、緩やかな傾斜の護岸にしましょうっていうことを取り決めをしました。それがこの『やすらぎ堤』です。

これが割と新潟駅のすぐ近くの、中心市街地に近いところに場ができたので、この場をもっとうまく使えるような流れを作っていきたいっていうときに、地元の商工会議所の青年部の方が、もともと、この周辺でマルシェみたいなことされていました。新潟市や関係者の人たちが『みんないっしょにやれば、発展する可能性ある』ってことで、さらに民間のスノーピークさんというアウトドアメーカーさんと一緒に場作りがはじまりました。

スノーピークさんは新潟県の地元企業であり、『人生に、野遊びを。』というキャッチコピーを掲げて、おそと文化を広げたい会社です。市民が外に出ることは会社のミッションとしてもぴったりなんです。

結果的にどうなってるかっていうと、今ではSNSなどで検索すると、新潟の人たちの水辺に親しんでいる姿が日常的に見られるようになったと。」

市役所、国、地元に思いを持ってる青年会議所の人たち、商工会議所の人たちがいて、町内会の人たちがいて、スノーピークという企業が関わって、みんながタッグを組んでやったことで、新潟のまちに水辺を楽しむという文化ができました。

一人じゃできないけれど、みんなでやれば、水辺を楽しむ文化をまちにインストールすることができたという事例です。

岩本さん「あと、新潟にこういう場があるんだよってね、ちょっと自慢して連れて行きたくなるじゃないですか。そういうところがあるって大きいですよね。新潟は雪が多いので、こういうライフスタイルは夏場にしかできないんですけど、夏は外で遊びましょうって文化が新潟に生まれたってことはとても嬉しいことだなと思います。

イベントを乱立するのではなく、水辺で親しみたい人たちが、各々の目的を持ち寄り、自然と集まってくるエコシステムが公共で生まれました。」

岩本さん「実は2011年に河川に関わるルールが変わってですね。今までは行政の人しか使っちゃいけないっていわれていた河川を民間の人も使っていいですよっていうルールが改正されたんですよ。

新潟のように、プロセスを踏まなきゃいけないハードルはあるものの、やろうってことはできるような状況になってるっていうのは今の段階です。

けれど、『河川が使えますよ』とはいうものの、公共の場なので個人の自分勝手はできません。

まちで、水辺がどんな場所になったらいいのかと、みんなで話し合うことを、僕が代表をつとめているミズベリングで『ご当地会議』って開催しているんです。もうカウントするのをやめたくらい、たくさんのまちで開催しました。」

江東区水辺会議

岩本さん「観光地の水辺魅力化より、やっぱり日常で水辺をどう楽しむかを考えるのが岡山には良さそうですね。観光客は新幹線とかに乗ってくるでしょう。でも市民だったら徒歩3分とかで来られるから、そういう人たちを集めた方が労力がかからない(笑)

ただ、やっぱり皆さんにお願いしてるのは自分の当事者性として、水辺を活用したい根源的な理由を、まず自分自身と向き合って考えてくださいって思います。

どこかの成功事例をここでやりましょうって話じゃなくて、それを自分たちがここでなぜやりたいかっていうところに問いかけていただけると、とってもいいんじゃないかなっていう風に思いますね。」

久山さん「いや本当に勉強になりました!これからみんなで考えようと思うので引き続きご相談に乗っていただいてもよろしいでしょうか。」

岩本さん「わかりました(笑)!」

公共の水辺は行政が管理している場。民間がやりたいことをやる時には、かならずお伺い立てなきゃいけない場所です。そんな場所を「私の水辺」と思うことは少々ハードルが高いことかもしれませんが、水辺と自分自身の付き合い方について考えることが、アイデアを実現するために大事だといいます。

そして、そんな個人の思いを各々共有することで岡山の水辺らしさみたいなものを獲得していく。このプロセスを丁寧にしていくことが岡山の水辺には必要です。

ここで一部はおしまい。第二部では、岡山の水辺をCoolにするために、強力な岡山市民2名をさらにゲストに迎え、実際に岡山の水辺はどんな場所にするのが良いかを議論します!

(第二部につづく)

Text:アサイアサミ(ココホレジャパン)
Photo:宮田サラ(まめくらし)、ココホレジャパン

聞き手:アサイアサミ
社会編集者。東京生まれ東京育ち。出版社の雑誌編集などを経て、2012年岡山へ移住し、地域の魅力を広告する会社「ココホレジャパン」を起業。大企業のマスメディアから自治体・地域企業の広報まで、ミクロとマクロを縦横無尽に横断しながら社会をより良くするための斬新でユニークでハッピーなコミュニケーションを編集。現在、竹中工務店とコラボレーションして木のまちをつくるプロジェクト「キノマチウェブ」や都市型自動運転船「海床ロボット」コンソーシアム、瀬戸内海のゴミを減らすために岡山のまちを楽しくする「どんぶらこリサーチ」などを展開中。




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