世界中のまちで暮らした夫婦がずっと住みたいと思う岡山の「使いこなしかた」とは?「京橋・表町・旭川」
アメリカのポートランド出身のプリチャード ケイレブさんと麻美さん。ふたりの暮らしぶりは「ここはどこ?ポートランド?」と目を疑うほど、岡山のまちがとても魅力的にみえます。
岡山へ移住して12年目のプリチャードさんたちは間違いなく誰よりも岡山を楽しんでいると声を大にして言いたい。夫婦は「ふつうに暮らしてるだけだよ〜」「岡山がいいところなんだよ〜」と笑って言いますが、その暮らしかたは岡山のポテンシャルを最大限引き出すマインドや工夫が盛りだくさん。私たちが何気ない日常のなかで見逃している、岡山の暮らし良さを見つけて、ライフスタイルに取り入れています。
プリチャード一家が大事にしていることと岡山のまちが持つポテンシャルがマッチした、世にも幸せな暮らしぶり。この記事を読めば、岡山の風景が違って見えるはず。
まちを愛するひとのインタビュー2023 その13
ケイレブ・プリチャードさんと麻美・プリチャードさん
プリチャード一家は大学准教授をしているケイレブさんの仕事の関係で、東京、ポートランド(アメリカ)、ソウル(韓国)、神戸西宮、横浜、逗子、そして岡山と、世界中のまちで暮らしてきました。
麻美さん「大好きな逗子に家を買って「ここで落ち着こう」と思っていたら、まさかの岡山移住。逗子に暮らしていたとき、ケイレブは逗子から1時間電車に乗って、東京の大学に勤めていました。
2011年東日本大震災を経て、暮らす場所を考え直すときにちょうど岡山大学で教授募集があって、岡山へ行くことになりました。」
世界中のまちを知っているふたりに岡山のマチナカの第一印象を伺うと「交通も生活も便利で、車を持っていなくても生活していける」と思ったそう。
ケイレブさん「実際暮らすと東京よりも便利でした。東京は、まちによって役割分担がされていて、電気量販店などがあるまちは住宅街から30分くらいかかります。しかし岡山はコンパクトなので自転車で5分で行けます。
買い物だけでなく、友達にすぐ会えるのも魅力です。東京のときは人が多いからみんな暮らす場所が広範囲で、約束して待ち合わせして、何十分もかけて会います。だから、数ヶ月に1度くらいしか約束できません。岡山のマチナカはコンパクトなので待ち合わせしなくてもばったり会えるのもすごいです。
そして、身近に自然があります。東京や大阪などの都会も大好きだけど、里山が近くにありません。山に登りたくなったら私たちは操山へ行きますが、操山も徒歩圏内ですから週3回は登山ができます。岡山後楽園には毎日行きます。旭川では自分のボートを浮かべて、よく昼寝します。」
麻美さん「よく「ボートに乗った人が流されてます!」って心配されてるよね(笑)。」
車を持たない暮らしのほうが、岡山は便利でたのしい
拡散型で車社会の都市だといわれる岡山で、プリチャードさんたちは車を所持していません。「育ち盛りの子どもが4人いる家庭」と訊くと驚きませんか?
ケイレブさん「車があったら旅行など便利だなって思いますけど、私は車を持たない主義。
私が日本ではじめて暮らしたまちは東京都世田谷区の豪徳寺でした。豪徳寺は、細い路がたくさんあって人が多くて賑やかなのに『静か』なんです。それは車があまり通らないから。
アメリカは賑やかな場所は車も多いから煩くて、賑やかなのに静かな場所なんてないから本当にびっくりしました。岡山もそんなふうになったらうれしいし、なれるのになと思っています。」
麻美さん「それに岡山は、県内のほとんどを公共交通が網羅しているから、行けないところはほぼないです。」
ケイレブさん「逆に車があったら不便です。どこに行くにも駐車場を探さなければならないし、維持費も高いです。マチナカであれば車よりも自転車が断然早いです。」
これがプリチャードさんたちの「まちを使いこなす」方法のひとつ。マチナカの整備された公共交通を使い倒すこと。
JR岡山駅は山陰・中国・四国地方の玄関口となるターミナル駅であり、全国有数の乗り入れ駅で車を使わなくても行ける地域が多いのです。また、岡山市は『路線バス・路面電車の運賃無料DAY』を定期的に行ったり、行楽シーズンは期間限定キャンペーンで観光地への無料バスが運行しています。プリチャード家もよく利用しているそうで「キャンペーンやっているから」というきっかけで行き先を決めるのも楽しそう。
通勤や通学、それに買い物や旅行、暮らしの中での移動について、地球温暖化の原因のひとつとされるCO2の排出量の少ない方法を選択することを「スマートムーブ」といいます。世界的に主流となってきたライフスタイルですが、岡山のマチナカでは無理なく取り入れることができます。プリチャード一家が愛してやまない、岡山の自然を守ることにも繋がります。
麻美さん「コロナ禍以降、私は仕事上(助産師さん)県外に出ることは控えなければならなくて、結果、岡山県内は北から南まで、山や島も行き尽くしました。」
ケイレブさん「私たちは、車はないけれど、車持っているひとより絶対いろんなところに行っていると思います(笑)。」
マチナカの古いビルを住居にして自然享受と利便性を担保
そんなプリチャードさんたちは2011年に岡山に移住した当初、マチナカにほど近い一戸建て賃貸住宅で暮らしていました。
ケイレブさん「ヨーロッパやアメリカは便利なところは物価が高いのですが、岡山は便利なのに物価が安いのにも驚きました。」
麻美さん「ポートランド(アメリカ)の場合、ワンルームでダウンタウン(マチナカ)に住もうと思ったら家賃が数十万円かかります。世界的に見ても暮らしにかかるコストの低いまちですね。」
ケイレブさんが初来日した頃、日本は物価の高い国でしたが、今は世界的に見ても物価の安い国になりました。特に岡山は極めてコストパフォーマンスがいいと夫婦は声を揃えます。家賃ひとつ見ても、東京の平均相場にくらべ、岡山の家賃は約4割ほど安いそう。
6年前には、旭川も操山もマチナカも徒歩で行ける、プリチャード家のライフスタイルにぴったりの小さなビルを購入。大家族もゆったり暮らせる家にリノベーションしました。
麻美さん「この家、ほんと最初はボロボロでした(笑)。」
ケイレブさん「岡山は古い建物がとてもお手頃価格です。欧米では古い建物にこそプレミア価格がつきますが、日本の住宅は古い=安いですよね。岡山でも新築は高いです。こんな気軽に古い建物を自分たちでリノベーションして暮せるのは本当に日本だけなんです。」
これも目からウロコの価値観。日本では築年数が古いほど相場が安くなります。建物の経年変化を慈しみ、自分たちの暮らしに合わせてみずから家を直して住まう欧米の価値観からすると空き家だらけの岡山は『宝の山』なのです。
ケイレブさん「けれど、岡山のマチナカは、平面駐車場が多くて、アスファルトが目立ちます。もったいないですね。駐車場じゃなくて、公園や緑地だったらいいのにって思っています。私が岡山のマチナカで一番好きではないポイントは駐車場が多いところかな。
この家をリノベーションするとき「1階を駐車場にしますか?」と聞かれましたが、絶対して欲しくないと伝えました(笑)。私たちにとって、便利なことよりも、たくさんのグリーンやわたしの変な自転車が停めてあったりすることで、まちの風景がよくなることのほうが重要でした。」
まちに家を持つことはまちにとってきわめて公共性の高い活動であることを、彼らは知っているのです。個人でありながら公共の意識を持ち、まちにとってなにが良いか考えて行動することは、結果として自分にもまちにも恩恵をもたらすといいます。
ケイレブさん「岡山に建つマンションの1階はどこも駐車場です。なぜ?!って思います。そうすると、風景が駐車場ばかり。欧米のマンションの1階はとてもきれい。路面店やまちを歩くひとを和ませるグリーン、まちの景観をよくする窓など、グッドデザインです。
マチナカのひとがもっと自然を意識したらもっといい暮らしかたができると思います。岡山城周辺などは緑がいっぱいあるし、やればできる!」
麻美さん「やればできる(笑)!私たちの暮らしには自然も利便性も必要で、それがほどよく揃っているのが岡山なんだと思います。」
夢をあきらめなくてすむまちで助産師になる
ふたりが岡山に来て大きく変化したことのひとつは、麻美さんが助産師になったことです。
麻美さん「岡山の看護学校に3年通って、大学院に2年通いました。岡山にくる前から助産師になりたいとは思っていましたが、一番下の子が大きくなってからと思っていました。
でも、岡山に来たら自転車で通えるところに看護学校があることがわかって、今しかない!と思って挑戦しました。そのとき末っ子は3歳でした。」
「岡山に来てなかったら助産師になれなかったかもしれない」と麻美さんは言います。
麻美さん「都会では子を持つ親が学校に通うのが物理的に大変ですし、子どもを預けるなど社会的インフラが整わなかったと思います。私の夢が岡山に来て叶いました。そしてなにより大きかったのは夫の支えがあったからです。」
ケイレブさん「そうそう、岡山で行われた男女共同参画のイベントに私が登壇しました(笑)。そこで女性へのサポートについて話しました。珍しいから呼ばれたのだと思いますが、私はパートナーが支えることを当たり前にしたいんですけどね。」
女性が子育てを理由にキャリアを諦めることすらめずらしくない今、プリチャード夫婦の挑戦を可能にしたのはまちがいなく岡山の住環境。岡山が「夢をあきらめなくてすむまち」であることを、ふたりが証明してくれました。
また、慢性的に医療従事者が不足しているなか、岡山の赤ちゃんたちを取り上げてくれるひとが増えたことは、まちにとっても計り知れないメリット。まちがひとを支え、ひとがまちを支える、理想的な循環です。
まちを楽しむコツはリラックスすること
公私ともに岡山を満喫しているプリチャード夫婦ですが、普段の生活はどんなふうに過ごしているのでしょうか。
麻美さん「家から徒歩数分で旭川河川敷に出られるので、焚き火してます。」
マチナカで焚き火…?! キャンプ場でしかできないのでは?
麻美さん「国交省岡山河川事務所が管轄してる河川敷はOKなんですよ。コンクリートのところは港湾施設だからNG、とかルールは確認してます。でも、うち以外でマチナカの旭川で焚き火しているひとはほとんどみたことがないですね。1度通報されて警察がきたこともありましたね。」
普段の生活を訊いて「焚き火」と返ってくるとは思いません…。その焚き火ルールは岡山市民も知らない気がします。けれど、用意など大変では?
麻美さん「全然!今日する?みたいな気軽な気分で。すぐ近所の焼き鳥屋さんで焼き鳥を買って、その向かいの酒屋でワインを買って、焼きたいものを適当に持っていって、炙って食べる。夕飯をつくるより気軽ですよ。手抜きともいいますけど(笑)。」
ケイレブさん「気合が入ると続かないし、みんなもっとリラックスしようよって思います。だって焚き火は楽しくてリラックスするためにしますから。」
麻美さん「ものは少ないほうがいいなと思っていて、できるだけ気軽に、いかに楽しむかですね。」
ケイレブさん「日本人は、目立ちたくないし、みんなと一緒でないと心配そうにします。ここは人口密度も都市部に比べたら低いし、まわりを気にしすぎないでって思う。どう思われたって、じぶんが一番好きなことをしたらいいと思いますよ。」
これぞ、プリチャード家が岡山を使いこなすための最大のコツ=「まわりを気にしすぎずリラックスすること」。リラックスして、じぶんのやりたいことをしようとマチナカを見渡せば、きっとそこに実現できる要素があるといいます。
最後に、2人へ岡山でずっと暮らしたいと思えた最大の魅力を伺いました。
麻美さん「私たちが岡山に家を買ってもいいなと思えたのは「このひとたちと一緒に歳を重ねていきたい」と思える友人たちと出会ったから。それはすごい大きかったんですよ。」
ケイレブ「他のまちに暮らしていたときは面白い友だちが見つけづらかった。それは人口密度が高すぎて多様な人が多過ぎるから。岡山は、興味のあるイベントへ行くといつも同じひとが集まっています(笑)。興味が似ているからすぐ仲良くなれますよ。」
世界中、いろいろなところに移り暮らしてきたプリチャード夫婦が、岡山に定住しようと思えた最大の決め手は「友人」=「ひと」との出会いでした。
この春から私たちのライフスタイルはウィズコロナへ移行し、イベントなども解禁になります。マチナカに出て、ヒトやコトやモノと出会いましょう。ちょうどいいサイズ感の岡山で、肩の力を抜いて、リラックスして。
プリチャード夫妻おすすめスポット
家族でよく行くお店
話題の新店の多い京橋エリアのおすすめ
他にも、はいくれあ、来輪、山椒とわさび、下津井港、Folklore、有知残など魅力的なお店がいっぱい。「是非まち歩きを楽しんでほしい」と麻美さんより。
聞き手:アサイアサミ
社会編集者。東京生まれ東京育ち。出版社の雑誌編集などを経て、2012年岡山へ移住し、地域の魅力を広告する会社「ココホレジャパン」を起業。大企業のマスメディアから自治体・地域企業の広報まで、ミクロとマクロを縦横無尽に横断しながら社会をより良くするための斬新でユニークでハッピーなコミュニケーションを編集。現在、竹中工務店とコラボレーションして木のまちをつくるプロジェクト「キノマチウェブ」や都市型自動運転船「海床ロボット」コンソーシアム、瀬戸内海のゴミを減らすために岡山のまちを楽しくする「どんぶらこリサーチ」などを展開中。