お城と川のあるまちで暮らすことはマチナカ暮らしの特権。再整備が進む城下エリアで「ENNOVA OKAYAMA」がイベントを企画する意味とは「城下・岡山後楽園」
岡山市のマチナカにある観光名所といえば、岡山城と隣接する岡山後楽園。2022年11月には1年5ヶ月の改修工事を経て岡山城がリニューアルオープンしました。岡山後楽園内の桜が色づきはじめ、四季折々を感じられるこの場所がますます楽しみです。
岡山城や岡山後楽園を中心とした城下エリアは、13の文化施設が集まることから「カルチャーゾーン」としても知られています。
このエリアはいま、旭川の河畔に位置する「石山公園」や岡山城の城郭内にある「旧・内山下小学校跡地」をはじめ「岡山市民会館」「旧・NHK岡山放送会館跡地」などの再整備が進んでいるほか、民間の再開発で新たなマンション建設計画が立てられるなど、まちの形が変わりつつあります。
そんな城下エリアで、2011年から12年間にわたってまちづくり活動を続けているのが特定非営利活動法人ENNOVA OKAYAMA(エンノヴァ オカヤマ、以下ENNOVA)です。石山公園で開催する夜市や廃校を活用したフェスなど、市民参加型イベントの企画運営を手がけるENNOVA代表理事の小林弘昌さんに、城下エリアのこれまでと、これからのまちづくりに対する思いを伺いました。
まちを愛するひとのインタビュー2023 その14
ENNOVA OKAYAMA 小林弘昌さん
まちがつくられた歴史を感じられる場所
ENNOVAのキーワードは「縁」と「自治」。ひとと地域を結ぶきっかけをつくり、自分たちの暮らしを自分たちの手で変えられるという可能性やヒントを見出すことを目的に、2011年に設立されました。
岡山城の本丸跡に歴史散策ができるように整備された「烏城(うじょう)公園」と、2001年に閉校した「旧・内山下(うちさんげ)小学校」の2ヶ所を主な活動拠点とし、イベントの企画運営を手がけています。
岡山市のマチナカで生まれ育った小林さんは、岡山県内の広告代理店に就職。仕事を通じて、まちづくりに関わるひとや、地域でボランティア活動をしているひとと出会います。当時の勤務先の先輩にENNOVAが企画するイベントに誘われたことがきっかけで、はじめはボランティアとしてENNOVAで活動しはじめたそうです。
そして、2022年9月にENNOVAの代表理事に就任。就任後はじめての大仕事は岡山城のリニューアルのPRでした。岡山城の工事期間中もPRしたいという岡山市の依頼を受けて、ポッドキャスト番組でリスナー数約19万人を持つ「歴史を面白く学ぶポッドキャスト『COTEN RADIO』」とタイアップし、岡山城のことを取り上げてもらったそうです。
小林さん「改修工事期間はお城の中を見せるわけにもいかず、パネル展示は全国のひとに伝わりにくい。昨年はコロナ禍ということもあって、ラジオやポッドキャストなど『声メディア』が流行りだしていました。そこで『COTEN RADIO』に問い合わせしたら、快く受けていただき、企画が実現しました。」
「COTEN RADIO」では、前・中・後編の3回に分けて、豊臣秀吉の家臣だった宇喜多秀家が築城した岡山城の歴史や、岡山のまちがどのようにつくられたのかなど、あますことなく紹介され、リスナーは岡山城のことを深く知ることができます。
小林さん「1597年に岡山城が築かれてから岡山のまちがつくられて、今につながっている。市民の方はもちろん、観光で初めて訪れるかたにもそういった歴史を感じられる場所であってほしいと思います。また岡山城や岡山後楽園だけでなく、その周辺も楽しんでもらうことで、マチナカの魅力を知ってもらう機会になると思い、このエリアでさまざまなイベントを企画しています。」
イベントの企画運営のほか、岡山市と協働して社会実験なども手がけてきたENNOVA。そのなかで3つのイベントの見どころや、イベントに対する思いを教えていただきました。
お城のある日常の贅沢さを味わう
大型連休の最中に行われる「ゴールデン夜市」や「お盆夜市」は、石山公園で食を楽しむナイトマーケットで、市民からの人気の高いイベントのひとつです。特に人気なのは、旭川沿いに期間限定で設置される月見カウンターなのだとか。
小林さん「夜市は、川を眺めながらお酒や食事を楽しめる、すごく贅沢なイベントだと思います。400年以上前にお殿様がつくった風景のなかで食事ができるって、岡山市のように城のあるまちでしかできません。外で食事をする開放感からか、月見カウンターの常設を希望する声も多いですね。」
日常の風景にお城があるのは岡山市民にとっては当たり前でも、観光客など大多数にとってはめずらしいもの。夜市は、昔お殿様によってつくられたマチナカの歴史に思いを馳せることができる機会です。
コロナ禍の3年間は、イベント開催は難しく、残念ながら後楽園夜市は近年2年間お休みしていたそうです。そんな中、廃校になった旧内山下小学校で開催される「マチノブンカサイ」は、コロナ禍でも一度も欠かさずENNOVA設立から10年間ずっと続けてきたイベントです。
コロナ禍でも続けた「マチ型フェス」
小林さん「マチノブンカサイは、マチナカの文化が混ざり合う、音楽と飲食が楽しめる『マチ型フェス』です。体育館ではプロの音楽ライブのほか、校舎では地元作家によるワークショップを行うなど、幅広い年齢層の方に楽しんでもらえるように設計しています。」
マチノブンカサイは毎年9月頃に開催され、約1,000人が来場するのだそう。しかしコロナ禍での開催は、チケットを無料にしたり、価格設定を変えるなど試行錯誤しながらだったと振り返ります。
小林さん「これまでは音楽ライブが見られる4,000円から5,000円のチケットだけでしたが、2022年は校庭と校舎エリアだけを楽しめる入場券を500円で用意したところ、小さなお子さんがいる方々にも遊びに来ていただけて好評でした。ほかにも新しい試みといえば、ぼくの趣味でテントサウナも設置したことでしょうか(笑)。」
マスクを着用したり、ソーシャルディスタンスを保たなければいけなかったり、規制も多かったコロナ禍で、なぜマチノブンカサイを休むという決断をしなかったのでしょうか。
小林さん「イベントを休止することは簡単ですが、ENNOVAの活動コンセプトである『人と地域を結ぶきっかけをつくる』ことに関係すると思っていたので、なんとか続けてきたという感じです。これからもマチノブンカサイは、ENNOVAの表現の場としてさらにアップデートしていきたいですね。」
また、2012年に第1回マチノブンカサイを開催後、2014年からの3年間は岡山市の「歴史まちづくり回遊社会実験」の一環として行われた実証実験「ハイコーチャレンジ!!」の運営委託も手がけるなど、旧・内山下小学校の活用と周辺エリアの活性化に取り組んできました。
今後は、子どもが安心して学ぶことができるイベントや事業をつくっていくことに新たに挑戦していきたいと話す小林さん。その背景には、コロナ禍に「マチノブンカサイ」の料金設定を改定したことで小さな子どもたちも楽しめるようになったほか、ENNOVAに関わってきたメンバーが子どもや家族を持つ年齢になり、子どもが生活の中心にシフトしていることが関係しています。
小林さん「マチノブンカサイでも、子どもの学びにつながるワークショップを地元作家さんにやっていただいています。2022年は、岡山在住のアーティスト高本敦基さんに協力していただきイベント前日に洗濯バサミを使って子どもたちと校舎を彩る企画を開催しました。」
2019年には石山公園活用検討会の事務局に就任し、市民と一緒に石山公園の活用方法を考えるワークショップを開催するなど、城下エリアの変化を見てきたENNOVA。このエリアがどんなふうに発展することを期待しているのでしょうか。
適度な人口規模の岡山だからできること
小林さん「ぼく自身、岡山のマチナカで生まれ育ちましたが、ここ十数年で産業人口も経済圏も、城下から駅前に広がっていったように感じます。繁華街として栄えてきた表町商店街からも賑わいが減り、コロナ禍もあり後楽園や岡山城を訪れる観光客も減少しました。そんな状況だからこそ、石山公園を中心としたこのエリアが、市民同士がつながれる場所になってほしいと思います。」
まちの形が住みやすく変わっていくことで、新しい市民が移り住んでくることも想定されます。小林さんは、イベントが新旧の市民が関われるコミュニティをつくる場になれると考えています。
小林さん「ぼくがいま住んでいる玉野市は、企業城下町と呼ばれていて、地域外から仕事を求めて移住してきた人たちがほとんどです。人口規模も大きくないので、移住者を受け入れやすい風土があると思っています。
でも、それなりに人口規模の大きい岡山市は、東京ほどではないかもしれないけど、隣に住んでいる人の顔がわらないということもあると思っていて。だからこそ、イベントに出かけて、まちで暮らしている市民が顔を合わせることが大切なんじゃないかなと思います。」
イベントの意味を、「期間限定の特別なもの」だけではなく『住んでいるコミュニティを知り、居場所をみつけるためのきっかけづくり』として考えている小林さん。ENNOVAが企画するイベントは、地域で受け継がれてきた祭りのような、お互いのことを知り、仲を深める場として機能するはずです。
マチナカに出かければ誰かに会える。心を落ち着かせたいときに公園に行ってみる。家庭でも職場でもない「第三の居場所」をマチナカでつくることができるのも、ほどよい規模感の岡山だからできることなのかもしれません。
再整備で変化する城下エリアに対する期待
これから変わりゆく城下エリアをおもしろくするために企む一方で、カルチャーゾーンに集積する施設の母体が県、市、民間企業などと異なっていることが課題なのだとか。
小林さん「施設の運営母体が異なる団体が一緒に手を取り合うのは、ひとつのキャンペーンにしても、どこがお金を出すのか、だれが仕切るのかなど、難しいこともあります。だからこそ、ぼくらみたいなNPOやまちづくり団体が中心となって、みなさんに収益を分配するような仕組みがあるといいなと思っています。将来的には文化施設を巡るパスポートチケットみたいなものをつくったりして、もっと城下エリアのまち歩きが楽しめる環境をつくれたらと思います。」
小林さん「理事長をいつまで務めるのか、具体的なことは考えていません。でも、若い世代が理事長をやりたいと言ってくれたら、バトンタッチはするつもりです。若者がたのしいと思えるまちをつくっていくためには若者の視点が大切だし、続いていくためには大切だと思っています。」
400年以上前に、お殿様が岡山城を築いたことでつくられた岡山のマチナカは、これから、再整備事業が進み、変化していきます。時代とともにまちの形は変わっても、お城と川と公園があることは、これからも変わりません。
歴史を感じることができる環境に住むことの愉しさに気づかせてくれるイベントを、これからもENNOVAは仕掛けてくれることでしょう。
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聞き手:中鶴果林
埼玉県出身、2021年に広島県の島に移住し、夫婦で古民家をセルフリノベーション中。専門商社の営業職、海外生活を経て、帰国後ココホレジャパンに入社。仕事や技術を譲りたい人と継ぎたい人をつなげ、まちの多様性の維持を目指す「ニホン継業バンク」の営業や、仕事の魅力を伝えるライターをしています。