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まちとひとの接点をつくる建築家が「宝島」と呼ぶ、岡山の魅力と課題と可能性

こんにちは!お久しぶりです。岡山へ移住して今年でまる10年になった、ココホレジャパンのライター、アサイアサミです。

奉還町で地域の魅力をここほれワンワン中!アサイは右端にいます。
写真:中川正子(ココホレジャパン近影のみ)

昨年、岡山の市街地(=マチナカ)の愉しみをつくっている人たちのインタビューを通してエリアの魅力を言語化してきましたが、その第2弾をはじめます!

今、感染症対策でひとの行き来が制限され、マチナカは、これまで以上に、ここに暮らすひと・働くひとが中心となった場にシフトしています。

そんな岡山ですが、コロナ前と同じく、いやそれ以上に、このマチナカに愉しみが増えているのを感じます。その形成過程がおどろくほど豊かでおもしろいのです。

そんなわけで今年もマチナカを面白くしているひとたちを掘り下げて、歩いて楽しいマチナカを勧めて・進めて・ススメていこうと思っています。

まちを愛するひとのインタビュー2022 その1
 『ココロエ一級建築士事務所』片岡八重子さん

2022年の岡山のマチナカを語ってくださるかたを訪ね、JR岡山駅の西口、奉還町4丁目へ。

オカヤママチナカの下町と名高い奉還町を西へ。奉還町3、4丁目にわたる「西奉還町商店街」には、KAMPの北島さんらの尽力で提灯が灯された。
駅からトコトコ歩いて約15分。鳥居が目印の「NAWATE」へ。夜の奉還町も雰囲気があって、また昼とは違う表情があっておすすめです。

この摩訶不思議な建物をリノベーション設計したのが建築家の片岡八重子さん。住まいから建物そしてまちそのものをデザインする「株式会社ココロエ」を切り盛りしています。

「NAWATE」「とりいくぐる」や「カド」など、奉還町4丁目の賑わいをつくる施設はすべて片岡さんが設計。建物のリノベーションはもちろん、そのなりたちを含めて携わっています。

岡山はもちろん、全国で、ひととまちの関係性を結ぶ建物に携わる片岡さんに「NAWATE」誕生秘話からマチナカの印象まで伺えたらと思います。

片岡八重子さん(Yaeko Kataoka)
1974年千葉県生まれ。不動産建設業界に5年間勤め、その後建築を学びたいと大学に編入学。東京の建築設計事務所勤務を経て2008年に岡山で一級建築設計事務所ココロエを開設。同時に尾道空き家再生プロジェクトに関わり、現在は同NPOの理事。建築とその周りを繋げるプロジェクトを尾道、岡山、牛窓など各地で行っている。

岡山のマチナカのひとは、まちとの「接点」を求めている

片岡さんは、2008年岡山に転居。「どこかにフィールドを作りたい」と思っていたが、余白が少ない関東では何か新しいことをすることが難しいと感じていました。夫が出身地である岡山に「いつか帰りたい」という思いが「今帰ろう!」となったそう。

そんな岡山の第一印象は「保守的なまち」だったといいます。

片岡さん「転居を機に設計事務所を独立・開設しました。あの頃は関東出身者が岡山で働くなんて人はあまりいなかった様で驚かれましたし、3年間は岡山では仕事できないよ、みたいなことを同業者の方数名にいわれたことで保守的な印象を持ちました。」

そんななか「上之町会館」という古いビルに事務所を構えました。そのビルを仕掛けた小石原さんは、マチナカでゲリラ的にいろいろな仕掛けをしているひとで、その場にいるだけで、おもしろい人たちに出会えるようになりました。

天神町の甚九郎稲荷神社の奥にある「上之町会館」は、表町商店街の商人たちのためにつくられたアパート。

片岡さん「そこで、おもしろい人たちとつながっていくうちに、わたしのなかで岡山への見方が変わっていきました。」

保守的に見えた岡山のマチナカも、ひとや場所に関わるほど、おもしろいものが出てくる宝島に思えてきた、と片岡さん。

片岡さん「色々挑戦しはじめて、そのうちのひとつが「NAWATE」です。」

「NAWATE」は、ゲストハウス「とりいくぐる」をはじめ、中庭を挟んで小さな小商いをする店舗がつらなる複合施設。昔、お肉屋さんだった大きな建物の中央を貫く鳥居を抜けると庭があり、肉屋の名残を思わせる大きな冷蔵庫が鎮座している。

片岡さん「この建物って、ちょっと変じゃないですか。奉還町で30年間空き家で、30年間もこの変な建物とまちが共存していたことがまずおもしろくて。まちの人々の無意識下にあった変な建物を意識させたい。それがモチベーションでした。

そして昼間でも夜でも目的がなくてもいられる場所。偶然、誰かと会える変な場所を岡山につくりたかったんです。」

そんな片岡さんの思いから「NAWATE」は、建物を設計し、改修するだけでなく、ここをどんな建物にするかをみんなで考えるワークショップを開きます。

改修前のNAWATEの様子

片岡さん「NAWATEの改修に興味を持った近くの方たちや「とりいくぐるというゲストハウスの内装をDIYします!」というSNSの投稿に反応してくれた方など多くの人が手伝いに来てくれて、みんなまちとの「接点」を求めていることを感じました。

また、まちに携わりたいひとはいるんだけど、そのきっかけが少ないんだなとも感じました。その関わるためのフックになれたらいいな、というのがその後の活動の源になりました。」

片岡さん自身、場のあり方にも関わるため、「NAWATE」を立ち上げたメンバーを中心に「NAWATE」の運営をする会社「合同会社さんさんごご」を設立。また、後に同じ町内にオープンした「ラウンジ・カド」の2階へ自身の事務所を移転します。

片岡さん「設計は、建物をクライアントに引き渡して役目を終えることがほとんどですが「NAWATE」は、つくったあとも関わりが持てて嬉しいし、発見もあります。

その時々で必要な機能を実感のあるなかで足していけますし、コロナ禍で宿泊業が立ち行かなくなったとき、設計者であり当事者だったので素早く対応できました。」

コロナでもみんなが集まれるようつくったオープンエアのウッドデッキ。

片岡さんは、出石町の「福岡醬油建物プロジェクト」にも長く関わり、空き家となった建物を開くイベント「たまりBAR」の企画・運営をしていました。

片岡さん「出石町でもまちの人たちがまちに関わるきっかけをどうやってつくれるかな、ということを探るところからスタートしました。やりはじめたらみんなノリノリで関わってくださって。

岡山のマチナカの人たちは、受け入れたり、楽しんだり、寛容だったりするんだな、ということがわかりました。」

後楽園の門前町・出石町に建つ元醤油屋「福岡醤油建物」で、将来の活用方法を地域の人々と模索。お掃除会やワークショップ、イベントを行う。

自立しやすいまちだから、やれることが多い

岡山のマチナカはいま、再開発が進み、まちの再編成がはじまっています。

片岡さん「岡山の中心市街地の駐車場率は約15パーセント、多いですよね。しかも岡山城の周辺などいちばん景観のいいところが駐車場になっています。地方都市あるあるですが、ちょっとした距離でも車移動してしまうことで利便性のいいところに駐車場をつくってしまう需要と供給が結びついてしまっているんでしょうね。

私は自宅から事務所まで自転車通勤で相生橋から旭川を渡るんですけど、その景色が本当に気持ちがいい。美しい一級河川があって、自然とまちが調和していて、車じゃ味わえない空気感があります。これを享受しないのはもったいないです。」

県庁通りからつづく相生橋。奥には岡山城を望む。

利便性の面でもマチナカは断然自転車や徒歩のほうが動きやすいと片岡さん。また、自転車や歩く速度で移動すると新たなコミュニケーションが生まれるといいます。

片岡さん「岡山のマチナカは地方都市のなかでも、政令指定都市のわりにコンパクトです。

もっと商圏が小さいまちだと観光に頼らないと商売が成り立たない部分もありますが、人口約70万人の岡山市はわりと「暮らしているひと」だけでまちをまわすことができます。

そういう意味で、自立しやすい、仕事しやすいまちです。起業もしやすく、飲食店なども観光に左右されずに済みます。そこがまた多様性を生んで豊かなんですよね。」

まちに備わる気持ちよさを味わう工夫はとても簡単。
移動の速度を落とすこと。
そして、この規模感の恩恵を自覚し行動すること。特別なことは一切必要ありません。

暮らしの愉しみは、誰でもつくれる

片岡さん「マチナカの居住区って貴重だと思うんです。だからこそもっと規制してもいい気もします。景観を損ねる高層マンションの無機質な立体駐車場を再考したり、緑化付きを定めるなど。

いいまちだから、まち全体がまちのなりたい姿へのヴィジョンを共有して建物をつくっていければいいなと思っています。数年後より、百年先をみるように。」

片岡さん「いま私が注目しているのは、マチナカの鉄筋コンクリート造の建物の寿命をどれだけ延ばせるかです。壊して建てる再開発ではなく、フルリノベーション、フルコンバージョンでまちを再構築していけるんじゃないかと考えています。

再開発では、新築する場合、。マンションをつくる道しか経済的に残されていないけれど、リノベーションならば、多様性が担保できるのではないかと。」

再開発によって新築すると家賃があがります。その価格に対応できるのは大資本チェーン店が中心となり、地元民が入れる余地がなくなります。判子で押したような地方都市に岡山がなりはじめているのでしょうか。

片岡さん「いやいや!岡山はつくづく城下町だなと感じるところがエリアごとの特色がすごくあること。いい意味で、町ごとにきっちりと領域がある。ブロックごとにキャラが濃い。濃すぎる(笑)。

エリアごとに蓄積された歴史があって、独自の文化ができます。こんなにマチナカでくっきり特色があるとまちを歩くひとは楽しいでしょうね。」

「こんなことができそう!」がまちのなかにたくさん転がっている。それが岡山のマチナカで、それがまだ残っていると、片岡さんはいいます。

片岡さん「私も、来た時のままずっと俯瞰者だったら岡山は「よそよそしいまち」でした。自分でいろんなことをやりだして、見え方が変わってきたんです。その変化をみんなにも味わって欲しいなって思います。

私の会社ではインターンを受け入れていて県外からも多く来てくれています。そういう子たちには、まちと関われるプロジェクトに携わってもらいます。まちに関わる人を増やしたいんです。」

岡山市のおとなり、瀬戸内市の旧牛窓診療所を活用した地方創生を推進する複合施設「ushimadoTEPEMOK(牛窓テレモーク)の様子

片岡さん「マチナカは、すぐプレイヤーになれたり、プレイヤーの手伝いをするスピード感がまちをもっと面白くしていくと感じています。

まちに関わった体験みたいなものの連鎖が、結果的にまちを愉しくしていくんじゃないかと。そのきっかけを、私の身の回りでつくっていこうと思っています。」

一緒にやりながら、まちのことを考える。さながら岡山市民、総プレイヤー化計画です、と片岡さん。フックをつくり出す片岡さんをはじめとした“おもしろがる大人”がこのマチナカにたくさんいるから、まちがさらに賑わっていくのでしょう。

マチナカの愉しみが「どれだけまちと関わったか」で変わっていくのだとすれば、自らでどれだけでもつくっていけます。ひとのせいにも、まちのせいにも、時代のせいにも、ハードのせいにもしない、じぶんのまちづくり。

まず、車から降りて、まちに出て、おもしろそうなところを覗いてみましょう。きっとあなただけのグッとくるマチナカがそこにあるはずです。

聞き手:アサイアサミ
東京都出身。大学在学中、宝島社入社。雑誌編集者を経てタワーレコードのフリーペーパー「TOWER」の編集長を5年間務める。その後フリーランスを経て、2012年岡山県へ移住し、広告会社ココホレジャパンを設立。移住情報誌TURNS副編集長などを歴任し、地方地域、環境問題、ライフスタイルなどのジャンルを得意とする編集者として岡山で楽しく暮らしています。