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ひとをよくする「食」は地域魅力化のエース。まちの酒屋さんと不動産屋さんが語る「マチナカの飲食、最前線! 」

「マチナカノススメ」は、歩いて楽しいまち、岡山市中心市街地の地域情報を発信するローカルメディアです。まちを愛し、面白くしている人々に岡山のマチナカで起こっているコトを伺い、みんなが知っているようで知らないハレまちな日常をお伝えしています。

今年こそ、ウェブ上の文章だけでなく、マチナカの人にもっとハレマチな日常の愉しみを知ってもらいたい。そして関わり合うきっかけをつくりたい、ていうか会いたい!

そこで、普段わたしたちが行っているインタビューに“立ち会って”いただき、交流して、よりお互いを知り合う時間にできたらと「マチナカノススメ」は、noteを飛び出し、マチナカで公開インタビューを行うことに。場所はハレまち通りにあるニュースポット『TERRASQUARE』です。

今回の“取材対象者”は、平和町の愛されワインショップ『スロウカーヴ』店主の渡邉隆之さんと、ひととまちをつなぐ不動産会社『HITPLUS』や錦町のグルメパン屋『PUBLIC』を営む打谷直樹さん。酒屋さんと不動産屋さん、飲食店の当事者であるおふたりに、マチナカの飲食店の現在地を率直にお話いただきました。ここから導き出される岡山の飲食店の魅力に注目です。

左)打谷直樹(Naoki Uchitani)
HITPLUS代表取締役社長。1980年埼玉生まれ奈良育ち。学生時代は野球に明け暮れ、2003年大和リースに入社。主に郊外型商業施設開発に従事。2004年10月、岡山に転勤したことで、岡山のまちのポテンシャルを感じ、よりまちに携わりたいと2011年大和リースを退社し、HITPLUSを創業。同時にまちづくりNPO法人を組織。現在は、エリア視点・民間事業者の両立場から、公共空間の活用・遊休不動産の有効活用など、ひとがいきいき暮らすまちの実現に取り組む。

右)渡邉隆之(Takayuki Watanabe)
1978年千葉県生まれ。大学と調理師専門学校を卒業後、東京のイタリア料理店で料理人・サービスマンとして働く。2011年に妻の故郷に近い岡山市に家族で移住。レストランレオーニ(絵図町)にて支配人兼ソムリエを務めたのち、2018年、ワインショップ&スタンドスロウカーヴを独立開業。『FESTIVIN』『ヴィナイオッティマーナ』などの全国的ワインイベントに参加出店しつつ、自身でも仲間と『ヴィノムオカヤマ』(2015~)を立ち上げるなど、自由なワインの楽しみかたを提案中。


岡山のマチナカにとって<魅力ある飲食店>とは

おふたりは旧知の仲。出会いの場は絵図町の名店・レストラン『レオーニ』でした。

打谷さん「渡邉さんはその昔『レオーニ』の支配人兼ソムリエで、渡邉さんのサービスって、ごはんの美味しさ以上に食事の時間をハッピーにしてくれるんですよね。僕はほんま良く通っていたのですが、実は渡邉さんに会いに行っていた節がありました。」

渡邉さん「『レオーニ』で打谷さんと出会ったわけですが、まあ、打谷さんは良い酔っ払い方をするんですよ(笑)。僕が話したことに対してすごい共感してくれて、いい人だなと思っていました。」

縁がつながり、打谷さんが当時空き店舗だった空き店舗(現PUBLIC)で渡邉さんと一緒に行ったイベント『One night bar』。

打谷さん「渡邉さんのサービスを受けると、サーブの仕方、知識、会話などで食事の時間がより豊かになるんだとしみじみ感じていました。だからとても酔っ払う(笑)。そんな渡邉さんが独立して『slowcave』(以下スロウカーヴ)をオープンされて。僕がマチナカの店で一番通っているといっても過言ではないくらい大好きなワインバーであり酒屋さんです。」

他にも『レオーニ』出身のシェフやソムリエがマチナカでお店を構えるようになり、マチナカの飲食店はレベルがぐっと上がったといいます。『レオーニ』は、まちに新たな価値を生む飲食店を育てる、マチナカにとって本当に大事なお店だったのです。

打谷さん「今まで岡山の飲食は『美味しいご飯が食べられる』、『いい雰囲気で食べられる』、『好きな人と食べる』という役割でした。そこに、渡邉さんたちが『食べてるものにこんな価値がある』ってことをサービスしてくれることで、新たな楽しみ方がプラスされました。」

飲食店はコロナウイルスの影響を最も受けた業界でもあります。この3年で、マチナカの飲食店はどのような変化があったのでしょう。

渡邉さん「いろいろなことがあったこの3年ですが、僕は、お客様が『自分にとって本当に必要なものを選ぶ』ことをもう一度見つめ直す時間でもあった気がします。そして、選ばれる僕らも、自分たちが提供してるプロダクトにはどんな価値があって、その本質は何なのかを考える時期でした。」

ちなみにスロウカーヴのワインを取り扱う飲食店で閉店になってしまったところはあまりなかったそう。

打谷さん「ええ店ばかりだから」

渡邉さん「いやいや、うちはまちの酒屋なので、取り扱い店を選べるわけじゃないですよ(笑)。でも、プロの飲食店さんに対しては僕から求めることはあります。うちのワインを扱ってくださるのであれば、僕が店頭でお客様に話す熱量をさらに上回る熱量でお食事にいらっしゃったお客様に価値を伝えてくださいとは言います。

…すみません(笑)」

いつもは、ワインをサーブしながらお客様の話を訊くのがお仕事の渡邉さん。たくさんお話していただきました。

打谷さん「僕は、マチナカで事業したい方にマッチする物件を探すことを12年ぐらいやっています。僕が仲介した飲食店でコロナにより閉店したお店もたくさんあります。

お店の傾向はバラバラですが、僕が気になったのは、経営者が自分のなかから『こんなことがやりたい!』と湧きあがったものを表現するお店は、どんな危機があっても乗り越えられている気がしますね。

自分の中のやりたいこととギャップがある事業をしていると、トラブルがあった時に改善策が出てこない姿を何度も見ました。やりたいことをやっているお店は強いなぁと不動産事業者として実感しました。」

自身もまちのプレイヤーとしてパン屋さんを経営している打谷さん。自分ごととして事業者に寄り添える不動産屋さん。

逆に、岡山は、他のまちに比べて「育つ」飲食店が多いのだとか。

打谷さん「1回食べてもう終わりじゃなくて、訪れるたび前回を越えてきて、こっちも嬉しくてまた通って、みたいなのを繰り返して飲食店が長く続いていく傾向はありますね。『レオーニ』はすばらしい人材を育てたレストランでしたが、これからは、僕らもまちぐるみでお店を育てよう…っていうと偉そうですが(笑)、応援していきたいし、応援したくなるお店を見つけたいですね。」

マチナカの飲食店の最前線を知るふたりが「通う」お店とは

そんなおふたりが足繁く通うマチナカの飲食店はどんなところなのでしょう?

渡邉さん「スロウカーブは21時までの営業なので、マチナカにごはんを食べに行くのは23時くらいになります。そのあと立ち寄るお店となると、やっぱり仲間のお店になりますね『ラボッカ』とか。美味しかったワインを一緒に飲んだり、お店が試食を出してくれたり。結構まんべんなく行きますよ。

普段使いだとカレー屋さんの『ミレンガ』は、週3ぐらい通っています。あと、『マルゴデリ』はほぼ毎日。もはやマルゴのフレッシュジュースで命繋いでます(笑)。」

ハラルにも対応している本格北インド料理店「ミレンガ」

打谷さん「一番利用してるというならやっぱり『スロウカーヴ』。あと、最近は表町に『River』という角打ちのお店が開店しました。すごくいい店で、機会を見つけては立ち寄る給水所みたいな使い方をしています。あと、会社のすぐ近くに『カフェキツネ』があって週7日行ってます。

僕は本当に飲食店を巡るのが好きなのと、飲食店と場所のマッチングをしてるので、飲食に行く時、意図的に、知らないお店とか新しくできたお店とかも攻めたりします。」

飲食的に、エリアでお気に入りは?と伺うと、渡邉さんは『スロウカーヴ』のある周辺。打谷さんは自らの職住が近い出石町とのこと。

打谷さん「岡山はエリア毎に個性があるので出店のご相談のときはやりたいことをはっきり伺ってから提案させていただきたいなって思っています。

やりたいことが実現できそうなまちをお客様に訊かれたとき『この方がやるならあのエリアがいい』『あのまちはカフェが手薄だぞ』ってすぐに答えられるよう、これからも飲み歩きたいと思います。」

渡邉さん「飲食店同士の関係性もすごくいいなと思っています。
飲食店を営むみなさんはランチとディナーの間のアイドリングタイムである14時から17時ぐらいの間にワインを仕入れに来てくださることが多くて、スロウカーヴでお店さん同士がばったり会えるっていうパターンがよくあります。」

飲食店同士が出会う場でもあるスロウカーヴ。

渡邉さん「そういう物理的な距離ってすごい大事だなと思っていて。覚悟を決めないと会えないっていうのも素敵ですけど、ばったり出会える距離感って心が開きやすいんじゃないかなって。

そういうことでつながってるお店が結構あります。お互いのお店に行ってみようとか、そのつながりって、岡山の飲食店そのものをよくしているんじゃないかなぁと傍から見ても思いますよ。

あと、僕、今年45歳なんですけど、若い人がやるお店を応援したいなって思います。仕事のことを教えてくださいっていわれると僕も嬉しくて。気持ちとしては、自分が今やってることを、次の世代の人たちに飛び越えていってほしいっていうか。そうしないと進歩がないじゃないですか。」

食とひととまちをつなげる、ふたりのネクストステップ

飲食店と利用者、飲食店同士、飲食店とまち。個性豊かなスモールエリアの関係性が、飲食店を通して成熟しているようすがおふたりの話から伺えます。マチナカへ飛び出せば、美味しくて楽しいことがきっとあるまちへ。そして、その最前線にいるおふたりは、今後、どんなことを企んでいるのでしょう。

打谷さん「今、石山公園のすぐ近くで、『パブリックカウンター』という、お店を出店したいなと思っている事業者さんや飲食店に、場のレンタルみたいなことを行っています。そこでは、何かを始めたいとか、場所をこれから探す人の最初の一歩になればいいなと。

石関町にあるPUBLICカウンター。

打谷さん「今後は、さらに、『パブリックカウンター』を進化させたような、ちゃんと席があって、自分のサービスを発揮できる、お試しの場を開きたい。お客さんにサービスも込みで飲食事業を試せるようなところです。新しくチャレンジする人の背中を押せるような場所を今年中に作りたいなと思ってます。」

渡邉さん「僕は3つあります。1つ目は、僕がいまやってる仕事をさらに広げたい。今は、ワインの作り手がワインに込めた思いであったり、作り手の人生のかけらみたいなものを僕が受け取って、それを提案するっていう仕事です。それと同じように、ものづくりをしている方々、野菜など一次産業の方々の思いを伝える部分っていうのを強くしたいです。

あともう1つは、さっきも少しお話しましたが、若い世代の方に自分たちが学んで身につけてきたことを、もう全部、預けたいっていうか、余すところなく受け取ってもらって、今の時代を乗り越えて、もっと良くしてくれるひとを応援したいです。

そして最後は、新しいワインの飲み方の提案をしたいですね。料理に合わせたワインの愉しみ的なものはもちろん、フルボトル一本開けたら『赤なら肉料理が美味しいけれど、この料理も合うよね』みたいな。飲み方を提案できるようなお店を新たにやりたいなぁって思っています。3つもあるんで、順番にやっていけたらいいなぁって思います。」

食とは、自然、文化、伝統、そしてコミュニティ、地域の個性を映すもの。生産者と生活者の間に立つ飲食店やお店の存在があることで、豊かな食文化のリテラシーが高まるのです。

地域には美味しい素材がたくさんありますが、丹精込めてつくられた食材をちゃんと「美味しく」食べることはなかなか難しいことです。けれど、岡山のマチナカはそれがすぐに叶うまちだな、とつねづね感じます。

心ある飲食店が真摯に美味しいものを提供していて、さらに、わたしたち市民もそういうお店を選んでいるからです。みなさんもそう思いませんか?その理由が、今回おふたり人から根掘り葉掘り伺ってわかった気がします。

そして、食は「人を良くする」と書きます。食はひとを良くして、ひとはまちを良くする。そんな“美味しい”連鎖が続くよう、みなさん、まちにでかけましょう。

当日の様子

おしゃべりしたあと、第2部では「出張スロウカーヴ」。来場者のリクエストに応える渡邉さん。
来場者の質問に答える打谷さん。無理難題を問われている?!
公開インタビュー、大盛況でした!
ワインのアテは、渡邉さんの盟友「ラボッカ」のおつまみ。

Text:アサイアサミ(ココホレジャパン)
Photo:宮田サラ(まめくらし)、ココホレジャパン

聞き手:アサイアサミ
社会編集者。東京生まれ東京育ち。出版社の雑誌編集などを経て、2012年岡山へ移住し、地域の魅力を広告する会社「ココホレジャパン」を起業。大企業のマスメディアから自治体・地域企業の広報まで、ミクロとマクロを縦横無尽に横断しながら社会をより良くするための斬新でユニークでハッピーなコミュニケーションを編集。現在、竹中工務店とコラボレーションして木のまちをつくるプロジェクト「キノマチウェブ」や都市型自動運転船「海床ロボット」コンソーシアム、瀬戸内海のゴミを減らすために岡山のまちを楽しくする「どんぶらこリサーチ」などを展開中。