第1回:JR岡山駅前広場をデザインするひとに訊く「岡山らしさ」の本質
まちを愛するひとのインタビュー その1
建築家・弥田俊男さん
こんにちは!
ひょんなことから、6年前より岡山駅徒歩5分にある奉還町商店街のど真ん中で暮らしているアサイアサミといいます。地域の魅力を広告する会社『ココホレジャパン』で、岡山のすてきなところをココホレワンワンして全世界に見せびらかすのが仕事です。
3年以上同じところに暮らしたことがないフーテンなわたしが、人生最大に居着いているのがこの岡山市中心地(マチナカ)。しかし、その理由を訊かれてもズバッと答えられないのです。ハレも、適度に便利も、桃おいしいも、うーん、決め手にかける…。もっと総合的に「なんか好き」なんです。
岡山のマチナカは、多様なステークホルダーたちが、枠を超えてあちこちでまちを楽しくしています。その様子を深く知ることで、わたしが日々感じている岡山の楽しさを言語化したい。
いまマチナカで起こっている有機的な変化を知り、魅力を再発見するため、個性的なエリアごとのコアプレイヤー「まちを愛している人」へインタビューしました。
記念すべき第一回、お話を伺ったのは弥田俊男さん。岡山と、ときどき東京の二拠点で活躍している建築家です。
弥田 俊男(Toshio Yada)
1974年、愛知県生まれ。隈研吾建築都市設計事務所を経て、2011年、弥田俊男設計建築事務所を設立。同年、岡山理科大学工学部建築学科准教授に着任。拠点を岡山と東京に。春日大社国宝殿(奈良)、道の駅あわくらんどトイレ(岡山)など、数々の建築を手掛ける。(写真:中川正子)
「ひと」が岡山駅前の風景であるべき
弥田さんは、JR岡山駅前の路面電車乗り入れにともなう駅前広場デザインを手掛けています(2023年運用開始予定)。岡山の顔ともいうべきターミナル駅前をどんなふうにデザインにしたのか気になります。
現在の岡山駅前。チャームポイントは桃太郎像。私はちょっぴり不安げな猿の様子がお気に入りです。(提供:岡山市)
弥田さん 「まず、車が主役ではなく、ひとが主役になる駅前広場にしたいと考えました。駅へ行き来するだけの通過点の広場ではなく、駅前広場が人々の居場所としての目的地になるような。そして駅から広場へと降り立った最初に、岡山へ初めてきたひとや久しぶりに岡山へ帰ってきたひとが『あ、岡山だ』って素敵な第一印象を感じられるような広場にしたいと思いました。
岡山は都市の規模と自然の規模のバランスのよさが魅力。駅前というまちの中心部にこそ、緑あふれるオープンスペースがあり、空が広く見えて、その先に市街地の眺望がパノラマに広がり、遠くには山の稜線も見える。その中で、人々が想い想いに、いい感じに『まちを使っている』様子が景色としてパッと視界へ飛び込んできたらすごく良いと思いました。」
岡山駅側から見た、岡山市街への眺めと緑の憩いスペース。にぎわいとまちへの誘いがデザイン。岡山後楽園への「見立て」の意匠を凝らした設計によって、都市の庭園広場を生み出している。(提供:弥田俊男設計建築事務所)
日本三大名園に数えられる岡山後楽園。観光客はもちろん、マチナカの人々の憩いの場所として愛されています。(写真提供:岡山後楽園)
弥田さんの視線の先にあるのは、このまちを歩き、思い思いに楽しんでいるひとの姿。その姿こそ、岡山が誇るべきアイデンティティであり、駅前のデザインに備わるべき景観なのだといいます。
建築家が目の当たりにした「岡山らしさ」
岡山で約10年過ごし、余所者の目線と当事者意識を併せ持ち、そして一流のクリエイターである弥田さんだからこそみつけた「岡山らしさ」。ここからさらに解像度をあげてお話を伺います。
弥田さん 「僕が思う岡山らしさとは、おだやかで、気持ちのいい感じ。おおらかで『ちょうど良い』と感じられる空気感。足りないところもいくつかあるけれど、それは住むひとたちがこれから足していける伸びしろとしての楽しみでもあると思います。」
弥田さんが岡山へはじめて訪れたとき、大きな可能性を感じたといいます。そしてその印象は今も変わらないとも。
弥田さん 「岡山は市民がまちの仕組みのチューニングに参加できるちょうど良い規模感の都市です。ひとが暮らす場所としての適正さがちゃんとある。」
確かに、岡山はまちづくりに関わる団体やプレイヤー、ステークホルダーが他のまちと比べて多いといわれています。
(「平成23年社会生活基本調査」によると、岡山県内でボランティア活動を行った人数が最も多い活動分野は「まちづくりのための活動(16.7%)」という数値も)
つまり、誰でも、このまちのプレイヤーとして、暮らしの自由を手に入れることができる余白があるということです。
インタビューに答える弥田さん(写真:中川正子)
他の都道府県でも、まちに影響を与える建築をつくってきた弥田さんに、岡山に近いまちはどこかと伺うと「個人的な印象で」と前置きして教えてくれました。
弥田さん 「感覚的にヨーロッパの中核都市に、岡山に近い印象を感じています。
コペンハーゲン、ウィーンには、実際に訪れたときに近い空気を感じ、通じるものがあるなと思いました。どちらも自転車や歩きでまちの文化を楽しめる同じくらいの規模感でした。」
こんなエピソードを伺うと、岡山が「歩いて楽しめるまち」になりえるヒントがある気がします。
岡山の課題は、自由ゆえの混沌とちょうど良さの崩壊
ここまで読むと、むっちゃいい感じタウンな岡山ですが、地方中核都市として課題も山積しています。
弥田さん 「まち全体としてグランドデザインが見えないですよね。プレイヤーは多いけれど、バラバラにやっているので塊としてみると統一感がなく、一本筋が通っていないのでカオスになっている現状があります。デザインと文化に対する共通意識と誇りが高まれば、ほんとうに素敵なまちになると思います。」
また、今後、岡山市内のマチナカに1,000戸以上を有するマンションができるなど再開発事業が進んでいく過程で大きな変化が予想されます。
色々な価値が分散し、混在している今のまちなかと、一極集中型の再開発という経済原理とを、うまくマッチさせていく方法はあるのでしょうか。
弥田さん 「分散の時代の先端を行くべき岡山が、一極集中モデルの高層マンションをまちの中に増やそうとしている現状に自爆感を覚えます。
せっかくいい感じに留まっているちょうど良さが岡山のポテンシャルなのに、高層マンションなどの先が見えてない今更の価値観で、それを狭めてしまうのはもったいないですね。
まちの中心部に、短期的な経済性による文化的に空虚でまちに無関心な容積が積みあがっていくことによって、岡山の空間的平均値の低下による魅力の値崩れを起こしてしまっています。
まち=地面と人との距離を遠ざけてしまう高層マンションというモデルは、縮小・成熟の時代の目指すべきまちの姿に逆行する存在であり、岡山にこそふさわしい、これからの時代を見据えたまちなか居住の新たなあり方を編み出して実現していくべきだと思います。」
高層の建物はひとをまち(地面)から物理的に遠ざけてしまうけれど、私たちひとりひとりがまちに飛び出し、歩いてみることで、まち=地に足をつけ、ひととまちの距離を遠ざけないことができる気がしました。
取材で伺ったのは表町にある弥田さんの事務所。公園のすぐそばで子どもたちの笑う声が聞こえるグッドロケーション。(写真:中川正子)
歩いて楽しめるまち、と弥田さんも称した岡山のマチナカ。弥田さんの個人的な「楽しいまち」の定義はなんでしょう。
弥田さん 「こだわりを持っている『クセの濃いひと』が、まちにどれだけいるかだと思います。そのひとたちが提供してくれる場が面白いので。
古くからいるクセの濃いひとも、最近加わったクセの濃いひとも混在しているのが岡山。こだわりがあるひとたちがつないでいく連鎖がまちを面白くしていくんじゃないかと思います。
飲食店だと例えば、野田屋町の『弁慶』や、そのすぐ近くで最近見つけた『bib』などが、クセの濃いひとがやっているいい店で好きです。いろんな店でちょいちょい遭遇する『ルーラルカプリ農場』のマックさんや『流しのCD屋』岡本さんも『クセの濃いひと』。こういうひとたちと偶然に会える感じが楽しい。
あと、外から友だちが来たときに『ここ面白いよ』って、連れていける場所がまちにどれだけあるか。そういう場所は自分にとっても心地よい場所だからです。
まちづくりをしよう!よくしよう!って気負っちゃう時点で失敗しちゃうので(笑)、まず自分が楽しめるように動いてみて、さらに他のひとも一緒に楽しめるように広げてみるとか。まず自分が楽しくないと。」
まちで面白いことをするひとがプレイヤーならば、面白がるひともまたプレイヤー。
コロナ以前は観光客で賑わっていたマチナカも、今は住民が中心です。
ポストコロナは、まちにいるひとたちが「岡山らしさ」を知り、そのポテンシャルを理解したうえで、自分らしく岡山のまちを好きになるのがキーになりそうです。
弥田俊男さんおすすめマチナカスポット
シネマ・クレール
丸の内1-5-1
岡山はもちろん、全国各地にもファンがいるミニシアター。岡山の文化をささえてきた貴重な映画館であり、ここでしか見られない映画も多々あり。コロナ禍で窮地に陥るが、多くの市民による熱い応援により乗り越えた。
かやくめし弁慶
野田屋町1-4-14
渋い店構えにふさわしい、岡山イチおいしいかやくめしを食べさせてくれるお店。昼は「かやくめし&あさり汁(820円)」など、夜は味わい深い居酒屋に。もちろんシメはかやくめしで。
bib espas(ビブ エスパス)
野田屋町1-9-1
「隠れ家」と呼ぶにふさわしいまちかどにあるスペイン料理屋さん。肩肘はらず、おなかいっぱい美味しいスパニッシュを楽しめるのは、店長の気さくな人柄のおかげ。
聞き手:アサイアサミ
東京都出身。大学在学中、宝島社入社。雑誌編集者を経てタワーレコードのフリーペーパー「TOWER」の編集長を5年間務める。その後フリーランスを経て、2012年岡山県へ移住し、広告会社ココホレジャパンを設立。移住情報誌TURNS副編集長などを歴任し、地方地域、環境問題、ライフスタイルなどのジャンルを得意とする編集者として岡山で楽しく暮らしています。