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第5回:岡山最後の下町は、やりたいことをやる、遊べるまちへ「奉還町商店街」

まちを愛するひとのインタビュー その5
『KAMP』・北島琢也さん

岡山駅には「東口」と「西口」があります。

岡山城をはじめ、観光客おなじみのエリアや、イオンをはじめとした商業施設は東口方面。その逆サイドであるJR岡山駅西口は岡山大学などの文教エリアや約35haにも及ぶ岡山県総合グラウンドがあります。東口と比べると居住エリアが多いこともあり、西口は良くいえば「閑静」、悪くいえば「寂れた」印象を受けるかもしれません。

そんな西口すぐのところにあるのが「奉還町」です。
東西に1丁目から4丁目まで続き、まちのまんなかにある旧山陽道沿いに「奉還町商店街」があります。

岡山駅の西側、東西に渡る奉還町。旧山陽道に沿った商店街は、正式には駅寄りから西へ1、2丁目を「奉還町商店街」、3、4丁目を「西奉還町商店街」といいます。両方合わせて「奉還町商店街」と総称として呼ぶ場合もあり。

なにをかくそう、私は「奉還町商店街」ど真ん中で暮らしています。
JR岡山駅まで徒歩5分、バスターミナルは3分、10分あれば新幹線に乗れてしまう最強の利便性を持ちながら、なぜかディープでマイナーな雰囲気ただようここの暮らしが気に入っています。

スーパーはないけれどモツ専門精肉店はある。ユニクロはないけれど古着屋はある。スタバはないけれど自家焙煎のカフェはある。

そしてこのまちで暮らすことを決定づけたのは『KAMP』というホステルが奉還町商店街にオープンしたこと。『KAMP』があるまちは絶対おもしろいまちになると思ったのです。

目論見通り『KAMP』はヒトモノコトが行き交う場所として、奉還町にたくさんの楽しみをもたらしています。今回は、奉還町にホステル『KAMP』をつくった北島琢也さんにお話をうかがいます。

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北島琢也(Takuya Kitajima)
株式会社kamp 代表取締役 CEO
1980年、兵庫県神戸市生まれ、岡山県赤磐育ち。株式会社KAMPのCEOでありディレクター、ローカルからグローバルに様々なプロジェクトに携わる。全国のサブカルチャーからメジャーなカルチャーに精通し、多角的な視野から新しいアイディアを提案する。
https://kamp.co.jp
(特記なき撮影:ココホレジャパン)

自分のシーンをつくりたいから奉還町へ

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KAMPの外観。

ホステル『KAMP』は奉還町商店街と西奉還町商店街のちょうど真ん中あたりの裏路地にあります。各地を旅する国内外のバックパッカーが集うホステルで、スパイスカレーやお酒が楽しめるラウンジでは地元民も集うイベントやライブなどが行われています。

この場をつくったきっかけは、北島さんが主催していたアウトドアイベント「牛窓ナチュラルキャンプ」から。イベントは年に1度しかないので、年間通していろんなひとが来られる場所をつくろうと思ったそう。

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瀬戸内市にある(ほぼ)無人島で行われていた「牛窓ナチュラルキャンプ」。2020年から舞台を大芦高原に移し「ウンカイナチュラルキャンプ」を開催した。(提供:KAMP)

北島さん「20年くらい前にワーキングホリデーへ行ったときに『老後にホステルやったら、旅人たちと話ながら楽しい毎日が過ごせるな』と思ったんです。日本でもインバウンド需要が増えているし、タイミング的には今かもしれない。と2014年にはじめたのが『KAMP』です。」

北島さんは、神戸生まれの赤磐育ち。なぜ奉還町を拠点にしたのでしょう。

北島さん「僕は、東京で就職した後、地元でなんかやろうと思ってUターンして、色々なフェスティバルに出店してはコツコツと服を売る行商生活をはじめました。その拠点を構えたのが西奉還町商店街でした。」

それが2008年に開店した『PHAT SHOP(ファットショップ)』。『KAMP』からさらに西側の商店街沿いにありました。『KAMP』のルーツともいえるお店です。

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アウトドアブランドの取り扱いが豊富で、キャンパーやフェス好きに人気の服屋さんでした。現在はデザイン事務所に賃貸中。(提供:KAMP)

北島さん「僕は高校と大学が岡山のマチナカだったので、学校の帰り道に色々な誘惑がありまして(笑)。たとえば、日本で2番めに古いライブハウス『ペパーランド』に通ったり、当時、未成年が立ち入ってはいけない夜の盛り場で、自分よりも上の世代の大人たちにいろんなことを教えてもらいました。
また、西口によく行く古着屋さんがあって、奉還町って面白いなってずっと思っていました。てんこもりごはんにバナナがついてくる伝説の食堂があったり、愛着がありました。
でも、僕が『PHAT SHOP』を西奉還町商店街に立ちあげようと思ったとき、学生時代にあった店はほぼなくなっていましたね。」

当時「西奉還町商店街」と呼ばれる真ん中から西のエリアは退店が止まらず、だいぶ寂れていたといいます。

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西奉還町商店街、西側の入り口。

北島さん「だからこそ、できあがったところでやるよりも、なにもないところで事を起こすほうがいいなと思いました。どうせやるなら、自分のシーンをつくりたいじゃないですか。若い頃、マチで遊びまくっていたことが、役に立つ日が来るとは思わなかった(笑)。遊んでいた場所がなくなっても、遊びを通じたコミュニティはずっと続いていたので、帰ってきてからも、いろいろ助けられました。」

『PHAT SHOP』は寂れかけた商店街で異彩を放つ存在になり、
「服屋というか、まちの相談所みたいになっていた(笑)」と北島さん。
その発展版ともいえるのが『KAMP』です。

奉還町カルチャーが醸成しはじめている

奉還町にお店を構え商売をはじめると、奉還町のまちそのものについても気になりだしてきます。

北島さん「地元のひとたちとの関わりかたをイチからつくりあげていかなきゃいけないのはどこも一緒ですけれど、ここは住んでいるひともいれば、商売しているひとたちもいる。
僕は岡山に帰ってきてから結婚して、最初は赤磐で暮らしながら奉還町に通っていました。そして子どもが小学校にあがるタイミングで奉還町に引っ越してきたんです。
ここに住むことになると、子どもたちがこのまちを歩くようになるわけです。僕のやることに心配していたまちのおじさんたちも、『子どもかわいいな』って、子どもを通じてまちの人との関係性がどんどん育まれていきました。最初は怖かったひとも、今では僕らのおじいちゃんみたいですからね。」

駅から徒歩5分のマチナカ・オブ・マチナカですが、近所のおじさんおばさんが野菜や魚を差し入れしてくれる。魚をさばいてくれる腕利きの料理人がいる。子どもを見守る大人がいる。困ったひとがいたら声をかける。そんな奉還町を北島さんは“岡山最後の下町”と称します。

北島さん「ここは密なコミュニケーションがとれる貴重なまち。人情があるのでそれが感じられるまでは時間が必要ですが、僕は今、まちのつながりで遊ぶことがめっちゃ楽しいんです。」

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現在、奉還町の飲み屋をのぞくと高確率で北島さんに会えるのがコロナ禍の利点かも。

まちとひとの関係の風通しがよくなると仲間が増えていきます。

北島さん「最初来たときはガラーンとしてた西奉還町商店街も、この1年、新店舗が4店ほど開いて、この春までにまた3店開く。コロナ禍にお店が増えるなんて、もはや意味がわからない(笑)。」

奉還町のニュースでいま最も熱いのは、コアな音楽ファンに絶大な支持を得る『GREEN HOUSE CD & RECORD』が問屋町から奉還町に移転オープン。県外にもファンからも駅から歩いて来られる距離に店舗ができると歓迎ムード。

また、古着屋も軒を連ね、若者たちが奉還町に通うことでファッション、アート、音楽のカルチャーがこのまちに増えつつあります。

北島さん「怪しい店もあるんですけど、またそれが面白いんですよね。物事は自然発生的なほうがいい。こういうまちを目指そう!と決めてしまうと、どうしても型にはまらないひとたちが除外されてしまう。そうではなくて、ふんわりとした雰囲気をもたせるくらいが大切やなって最近思います。」

「ふんわり」、たしかに奉還町を表現するならその言葉がぴったりかもしれません。

「ふんわり」個性を受け入れた奉還町商店街は、一言で表せないほど個性豊かな商店街になりました。やんちゃも、キッズも、若者も、お年寄りも、マイノリティも引き受ける。その度量がまちに多様化をもたらす。奉還町のカオスは、人情と許容範囲の広さで深淵を増しているのです。

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たとえば、ザクザグ(ドラッグストアチェーン店)の隣にドローンのお店がある商店街。おじいもおばあも興味津々で入店していたりする。

できることをやる、やりたいことをやる、遊べることをやる

しかし、コロナ禍において、ホステルである『KAMP』の経営は、けして順風満帆ではありません。

北島さん「いま宿泊客はほぼゼロです。でも、僕らは他に事業もやっていますし、『KAMP』をはじめたときに、1年に1つは新事業をやっていこうと決めていたので、そこでバランスを取っています。
宮下酒造さんとコラボしてクラフトジンをつくったり、上山集楽と大芦高原キャンプ場の再生をしたり、スモールビジネスをたくさんつくっていく。できることをやる、やりたいことをやる、遊べることをやるのが、株式会社KAMPです。」

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岡山の宮下酒造とつくったクラフトジン『The Inland Sea』

奉還町と台湾をつなげて勝手に(!?)姉妹都市にしようという企画もあるのだとか。北島さんが動けば動くほど、奉還町が魅力的になっていくから不思議です。北島さんのひらめきと行動力は他でもひく手あまたなのでは?

北島さん「僕は、簡単に稼げる道があっても、あえてそうじゃない道を選びがち。ひとがやっていないことをやりたいし、めんどくさい方を選ぶ。その基準で、仕事をやっています。ブルーオーシャンどころか、オーシャンまでなかなかたどり着けない(笑)。
それでも、自分の日常生活は過ごせるし、家族が最低限生活出来たらいいじゃないですか。毎日、奉還町の居酒屋へ飲みに行ける小銭さえあればね。それだけで人生は楽しい。」

と、北島さんはニヒヒといい笑顔。インタビュー中「面白い」「楽しい」を連発して、奉還町のことを話してくれたことが単純にまぶしかったのです。まちを「いいで!」と推してくれるひとこそ、まちのキーパーソンと呼びたい。

奉還町の「奉還」は、幕末の大政奉還から名付けられました。大政奉還で奉還金をもらった武士たちがここで商売をはじめ、奉還町商店街ができたそうです。しかし武士たちは商売が下手で、お店はすべて潰れてしまった、という逸話も含めて実に「奉還町らしい」と思うのです。

数百年の時が流れ、武士たちが開いたお店はなくなりましたが、「ここで新しいなにかをやってみよう」という空気は脈々と受け継がれているのは見ての通り。

プレイヤーも商売人も客も地元住民も観光客もみんなで「遊べる」商店街は、もしかしたら岡山でここだけかもしれません。

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北島さんたちが西奉還町商店街に灯したちょうちん。

北島さんおすすめマチナカスポット

奉還町 みつの
奉還町3-9-5
西奉還町商店街のディープゾーンに位置する居酒屋さん。新鮮なお刺身から手の込んだ料理まで楽しめる。路面のカウンターでは絶品メンチカツをテイクアウトできるのでメンチカツ片手に奉還町をお散歩するのも◎。
じくや
奉還町3-15-8
裏路地にひっそりと佇む雰囲気ある店構えが印象的。知る人ぞ知るそばの名店で、瑞々しい手打ちそばが食べられる。そばの味をじっくり味わえる「さらしな」がおすすめ。そばがなくなりしだい終了。

聞き手:アサイアサミ
東京都出身。大学在学中、宝島社入社。雑誌編集者を経てタワーレコードのフリーペーパー「TOWER」の編集長を5年間務める。その後フリーランスを経て、2012年岡山県へ移住し、広告会社ココホレジャパンを設立。移住情報誌TURNS副編集長などを歴任し、地方地域、環境問題、ライフスタイルなどのジャンルを得意とする編集者として岡山で楽しく暮らしています。

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