岡山は日常をスペシャルにできる。マチナカの「美味しさ」を知っている料理家の話「丸の内」
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岡山は日常をスペシャルにできる。マチナカの「美味しさ」を知っている料理家の話「丸の内」

マチナカノススメ 愉しみつくる岡山の暮らしかた

<岡山で暮らすよさ>をひとつだけ挙げるとしたら、わたしは断然、食材の美味しさです。

春は山菜から始まり旬のものが週刻みでお店に並び、夏は白桃が食べ放題。秋はみんな大好きシャインマスカットをはじめ果物ラッシュが続き、冬はぷりっぷりの牡蠣が破格で食べられます。

山の恵みも海の恵みも享受できて、さらに米の生産地という食材の宝庫。マチナカは都市部でありながら産地にも近いので、息を吸うように地産地消が叶います。食事は心身の健康にも関わってきますから、食材が美味しいことは、とびきり住み心地のいいまちだ!といえるでしょう。

しかしマチぐらしにおける買い物には少々コツがいります。どこでなにを買ってどう食べるか、それは「狩り」と呼びたいライフハックなのです。

そこで、岡山でいちばん美味しいものを愛しているひとに「狩り」を教えてもらうべく、岡山城を有するまち・丸の内へやってきました。

まちを愛するひとのインタビュー2022 その3
『viorto!』今枝ゆかりさん

丸の内のちょうどまんなかにあるのが料理教室『viorto!』です。ここで料理教室を開き、岡山の食いしん坊たちに絶大な支持を得ているのが今枝ゆかりさん。

今枝ゆかり(Yukari Imaeda)
東京都出身。パティシエの母のもとで生まれ育つ。大学卒業後、香港キャセイパシフィック航空客室乗務員として勤務。6年間の香港在住を経て渡伊。イタリア各地で手料理を学ぶ。帰国後、2010年より料理家として活動を始める。2012年、東日本大震災を機に岡山へ移住。二児の母。NHK「もぎたて!」料理コーナーに出演中。

彼女の手にかかれば、ただでさえ美味しい岡山の食材がさらに生き生きと輝く食卓に。なにより彼女自身が随一の「食いしん坊」なのがめちゃ信頼できます。まずはゆかりさんの、岡山との縁を伺います。

新たな暮らしの舞台に岡山を選んだ理由

東京出身のゆかりさんが岡山市に拠点を移したのは2012年。東日本大震災がきっかけでした。東京から別のまちへ引っ越しを考えるなかで、関東から岡山へ移住している人々をちらほら見かけるように。その移住者の共通点に彼女は心惹かれます。

ゆかりさん「どんな人なのかといえば、パン屋タルマーリーさん、蒜山耕藝さんなど「美味しいもの」をつくっているひとの行く先が岡山でした。このひとたちが岡山を選ぶってことは「岡山なら間違いない」と思いました。」

岡山のことをさらに調べると、各地でマルシェが頻繁に行われ、生産者と消費者の関係性も近しく感じたといいます。それはまるで自身が料理を学んだヨーロッパのような暮らしかたでした。

ゆかりさん「なにより、私は車の免許を持っていなかったので、自転車だけで生きていけそうな地方都市ってレアかもしれない!とも思いました。」

実際、幼い子ども2人を連れて岡山へお試し移住してみると、マチナカのポテンシャルの高さは想像以上だったといいます。

ゆかりさん「東京だったら入場料を取れるくらい充実した公園がたくさんあってびっくりました。子育てするには十分すぎるまちだと思いました。

同じタイミングで移住したひとが周りに多くて、友だちがつくりやすかったのもよかった。同じ境遇で共通意識があって、話づらいことも話しやすかったです。ここでは暮らしを自分の手で変えられるかもしれないと思いました。」

下石井公園を芝生化した社会実験では、子どもたちが駆け回る風景が日常化しました。

こうして晴れて岡山へ移住したゆかりさんは、より自分らしく暮らせるまちで東京時代から開いていた料理教室を再スタート。

ゆかりさん「岡山はとにかく野菜が本当に美味しくて「これは野菜を活かすイタリアンに最高だ」とテンションが上がりました。だから当初『viorto!』はイタリアンの料理教室だったんです。

瀬戸内海に面した県南部でオリーブ栽培が行われていたり、国産レモンの産地であるなど、地中海に面した温暖なイタリアと共通点が多い。

でも、途中で「毎日飲むお味噌汁を美味しくつくれるほうが幸せじゃないか」と思うようになって、はりきってイタリア料理を教えるのは違う気がしました。」

そこで、ゆかりさんは料理への向き合いかた、調味料の役割など、料理の本質を料理教室で伝えるように。岡山だからこそ、心がけひとつでおいしさに手が届くことを教えたかったといいます。

こうして「料理が上手になる料理教室」ではなく、「ずっと美味しいごはんが食べられるようになる料理教室」へ。

ゆかりさん「うちは「レシピを手放す」ことを目標にしています。レシピは料理を楽しみたいときにあればいいと思っていて、日々つくる料理で、レシピとにらめっこして料理をつくるのはしんどくないですか?

たしかに、食材の鮮度がイマイチだったり、野菜の味が薄かったりすると工夫が必要ですが、岡山は素材そのものが美味しいですから、蒸かして、お塩をひとふり、オイルたらりでごちそうになります。」

ゆかり先生の手にかかると、食材がぴかぴかと輝き出す。

料理上手とは、家にあるものでちゃちゃっとおいしいごはんをつくれるひと。そこを目指すにはコツが2つ。ひとつめは<自分で考えること>。

「全員の舌に合うレシピはこの世にありません(笑)。レシピをみても「塩辛くなるな」「もう少し甘いほうが我が家は好きだな」と考えることが大事だなと思います。食材の質も、火加減も、環境も、好みも千差万別です。」

ふたつめは<食材を選ぶことが大切>。日々の食材選びを、近所の便利なお店で済ませたり、週末に郊外の大型店でまとめ買いをしていませんか?ちょっとしたコツで、日々マチナカでお買い物することができるといいます。

マチナカおすすめお買い物スポットはココ!

ゆかりさん、御用達のマチナカのお買い物スポット、教えて下さい!

ゆかりさん「まず第一に1ヶ所でまとめて買わない!各食材、強みのあるお店で買いましょう。岡山で、便利に手早く買い物を済ませるような、都会とおなじライフスタイルをするなんてもったいないです。

マチナカは、さり気なく買う野菜もお肉もお魚も美味しいです。それが日常なのが岡山の尊いところ。でも全部が美味しいわけじゃありません。産地を確認すると、遠いところで採れた野菜なども売ってますよね。岡山や近郊で採れたものを選べば間違いないです。

野菜は、マチナカ近郊に「はなやか中央店」というJAの産直市場がありますし、岡山のスーパーマーケットの野菜売り場にはだいたい産直コーナーがあります。私はマチナカのスーパーで野菜を買うときは、まず産直コーナーをチェックします。」

産直コーナーをチェックして、ほしい野菜がなかったら生鮮野菜コーナーへ。それだけでだいぶ野菜の鮮度があがります。

また、ゆかりさんは料理教室を開いている関係で、農家さんから直接野菜を仕入れることも多いそう。蒜山の「蒜山耕藝」や瀬戸内の「ワッカファーム」など、ひたむきに野菜をつくっている農家さんから直接販売してもらうことも叶います。

ゆかりさん「お魚は、週2回、料理教室がある丸の内に移動販売へ来てくれるお魚屋の木下さんで買ってます。瀬戸内海で採れたての魚を軽トラで運んでくれるんですよ。」

木下さんは店舗を持たず、瀬戸内で水揚げされた新鮮なお魚を移動販売。市場より鮮度が高いかも?!

ゆかりさん「お肉は、南方の「肉のクマザワ」さん。岡山天満屋のデパ地下にも出店されています。塊肉を買うときよくお世話になっています。岡山県産の牛タンがあって、塊から好みの厚さにスライスしてくれるんです。他の塊肉もおすすめです。おかみさんがマニアックで、ひき肉も、ハンバーグをつくるといえば、その料理に適した部位を挽いてくださったり。

お肉やお魚などは売っているひととコミュニケーションがとれるところで買うのがいいですね。

スーパーマーケットは、中山下の「わたなべ生鮮館 柳川いちば」が新鮮で良いです。特に牛肉と豚肉は部位の種類が豊富で、その日の料理に合わせて選べるところが素晴らしいです。「森のマルシェ 柳川店」もいいお魚が入っている。

お肉もお魚も、買うときに「どうやって育てられたか」思いをめぐらすことも大事ですね。」

どこのお店もマチナカ徒歩圏内です。そして、普段から美味しい食事のためにこだわるべきは調味料だとゆかりさん。

ゆかりさん「瀬戸内海がそばにありますから、お塩はおいしいものがいっぱいあります。これも地産地消が叶う調味料。お店ならやはり、奉還町・岡大前の「自然食コタン」はすごいです。やまくにのいりこ、名刀味噌、こだわりのスパイスなど、美味しくて安心なものが揃う。めずらしいものも多くて、ほんと店主が勝負師だと思う(笑)。」

「自然食コタン」は、無添加、農薬化学肥料不使用、有機栽培などの農産物や昔ながらの伝統調味料をできるだけ日常で使ってほしいと、使いやすい価格帯・品質で揃える。

ゆかりさん「わたしの料理教室でも調味料を取り扱っています。特にオイルはしっかり作られたものを使ってもらわないと味が出ないです。

おすすめしているのは、アサクラさんの「イルフィーロディパーリア わら一本」。アサクラさんは、わたしがイタリア人から教えてもらったことと同じことをいう日本人に初めて出会いました!本当にまじめなものを売っているかたです。

あと、岡山県在住イタリア人、ルーチョさんのパンタレオ(オリーブオイル)。自分の生まれ育った故郷の<本物の>食材を岡山の人に本気で伝えているところが、私のしてることと似てるなって思っています。ルーチョは「自分が食べたいから輸入する」とお店をはじめたところも信頼できます。

これらのオイルなど岡山では売っているところがないので教室で売りはじめました。小売りは大変なんですが、岡山のみんなが美味しいものを食べるにはやるしかない!と。」

「viorto!」の物販コーナー。

ゆかりさん「食材や調味料を選ぶとき、自分や自分の大切なひとを大切にするために食事することを思い出してほしいなと思っています。

そして、つくるひとが一番美味しいと思うものを食べてほしい!スーパーマーケットで「これ食べたい!私が食べたい!」って思ったものを買うのが大正解です。」

ゆかりさんが移住してきたとき、もっとも心惹かれたのが西川緑道公園で行われていたマルシェ「有機生活マーケットいち」(現在は北長瀬で開催)でしたが、今は行われおらず、すごく残念だといいます。

ゆかりさん「産地が近い岡山だからこそ、パリのようなマルシェができます。瀬戸内市で行われている「備前福岡の市」は、近所だったら毎月欠かさず行きたい!と思うほど魅力的です。

マチナカはこれからどんどんマンションが増えて暮らしの比重が増えていくでしょうから、生鮮食品が買えるマルシェは復活希望です!」

今も昔も、岡山の台所がある丸の内で

ゆかりさんが教室を開いているのは​岡山城のある「丸の内」。岡山城の台所があったとされる岡山城・本丸中の段、表書院のほど近くなのがグッときます。まちのあちこちに石垣が残り、城下町を感じさせる情緒的なまちです。

自宅でスタートし、規模が大きくなってきたことから本町のマンションの一角にアトリエを開き、2020年の春、現在の丸の内へアトリエを移します。

ゆかりさん「もっと開放的にしたいなぁと思って、このまちピンポイントで空き物件を探していただきました。」

丸の内にこだわったのは、ものづくりをするひとのアトリエやアーティストが住み、隠れ家的印象があったから。暮らしのリテラシーの高い雰囲気がまちに備わっていて、感度の高いひとがアクセスしてくるのも魅力です。

キッチンスタジオにはいつも生花が。丸の内のフラワーアトリエ「Atelier La Note Muette」にお願いしている。

白を基調とした清潔感のある内装は、自然体に生きるゆかりさんにぴったりの空間。ゆかりさんの料理教室は、料理家が調理して見せて試食するデモンストレーションスタイルなので、ゆかりさんの自宅に招かれたようなアットホームさもあります。

ゆかりさん「移転のタイミングに、コロナ禍とぶつかって当初は料理教室を存続できるかレベルの危機でした。対面で、料理してもらう姿を見てもらうスタイルでしたし。

今は、コロナがあって逆によかったなと思うことが多いです。お客さまは年齢層が高めなんですが、オンラインを導入したことでみんなのネットスキルがあがりました(笑)。

そして、コロナを経て一周回って「場がある意味」ができた気がします。家でもない、お店でもない、サードプレイスのような場になっていて「いま友だちとは会いづらいけど、お教室に来てリフレッシュできた」と言っていただけるのがうれしいです。」

また、豊かさの意味が変わってきたのを感じているといいます。

ゆかりさん「これからの社会情勢を省みるとどんなにお金を出してもモノが買えないかもしれない。一次産業の作り手がつくった野菜を、手渡すひとを選ぶような時代がくるんじゃないかって。

岡山は、とても恵まれた土地だと思います。けれど、これからは積極的に自分で豊かさに手を伸ばして、つくり手たちとコミュニケーションをとって応援していかなければ、この豊かさを維持していけなくなるのではと心配しています」

少子高齢化、環境破壊、一極集中、人間が抱える課題はそのままダイレクトに食卓に影響を与える。遠いウクライナの戦争でも、すでに岡山の物価高騰が懸念されている。

「ごちそう」の語源は「ご馳走」で、馳走とは走り回ること。心を込めておもてなしすることは、走り回って美味しいものを集めることを指します。

岡山のマチナカは、走りまわずとものんびり歩いてまわって美味しいものに手が届くところだとゆかりさんが教えてくれました。その豊かさを消費者が少し意識しただけで、食卓も、岡山も、世界(!)も、持続可能なものになっていきます。

美味しい食材を「狩り」にマチナカへ出るもよし、豊かさのプロセスをゆかりさんにビシバシ鍛えてもらいに丸の内の「台所」へやってくるもよし。ごちそうを、イベントではなく日常に。日常を特別にできるスペックがあるのが岡山のマチナカ暮らしなのです。

聞き手:アサイアサミ
東京都出身。大学在学中、宝島社入社。雑誌編集者を経てタワーレコードのフリーペーパー「TOWER」の編集長を5年間務める。その後フリーランスを経て、2012年岡山県へ移住し、広告会社ココホレジャパンを設立。移住情報誌TURNS副編集長などを歴任し、地方地域、環境問題、ライフスタイルなどのジャンルを得意とする編集者として岡山で楽しく暮らしています。

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