第2回:クラブも飲み屋もサーカスも劇場もシェアオフィスもあるカオス「表町3丁目」
まちを愛するひとのインタビュー その2
THE BLUE WORKS・石井正彦さん
「岡山いちの繁華街」といえば、みなさんはどこを思い浮かべるでしょうか。駅前の一番街、桃太郎通りか県庁通り、やっぱりイオンモール?
いえいえ、岡山のひとは「表町商店街」と答えますよね。
戦国時代より岡山城下町として栄え、表町1丁目、2丁目、3丁目をぶっちぎり、1キロ以上にも渡ってアーケードが続くスーパー商店街。なんと2021年度後期のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の舞台にもなるとのこと。
今回は、表町商店街の南端エリア、表町3丁目のまちの魅力を、設計事務所や建築工事、不動産仲介など幅広い事業を手掛ける、THE BLUE WORKSの石井正彦さんにお話いただきました!
石井正彦(Masahiko Ishii)
1981年、岡山県生まれ。住宅会社を経て、2016年、THE BLUE WORKS株式会社を設立。翌年、表町三丁目にチャレンジショップ、シェアオフィス、コワーキングスペースを備えた複合施設「 CO.OMOTECHO 」をオープン。(特記なき撮影:ココホレジャパン)
表町商店街の南端に位置する表町3丁目。
象が闊歩する商店街だった
表町3丁目は、その昔、映画館があったり、吉本興業が「三丁目劇場」という専用劇場を構えていたり、「木下大サーカス」の本拠地があることから、商店街に象が歩いていた(!)という伝説があるエンターテイメントのるつぼでした。
1954年の岡山駅前。ここから木下大サーカスのある表町3丁目まで練り歩いたとのこと!(写真提供:山陽新聞社)
いまはライブハウスやバーが軒を連ね、知る人ぞ知る気の利いた飲み屋があったり。歩いて路地をのぞくと、めくるめくディープワールドが繰り広げられています。
そして、このまちに2023年、大・中・小の劇場が入る『岡山芸術創造劇場』が開館予定とのこと。もはやカオス。本当にひとつのエリアのはなしなのか?!石井さん、表町3丁目のこと、教えて下さい!
ババーン!ホールなど文化施設の他、オフィスや店舗も入る複合施設が表町3丁目に。(提供:岡山芸術創造劇場)
石井さん 「今このあたりは、ライブハウスやクラブがあって、味のある飲み屋もあり、夜の街のイメージが強いと思います。あと音楽好きが多いという印象のエリアですね。その文化を伸ばしていくことがこのエリアが生き残っていくための手段のひとつかなと思っています。なにより雑多な面白さがあるのが表町3丁目じゃないですか。」
商店街の方は、JR岡山駅から1キロ以上離れ、商圏として難しい局面にある場所だからなのか、チェーン店がない代わりに、どこにもない、ここにしかないお店が軒をつらねています。
古くからの商いをしているお店も多く、看板のフォントがレトロ可愛い。(提供:THE BLUE WORKS)
表町で挑戦したいプレイヤーに場を届けること
石井さんは岡山県岡山市出身。学生時代より岡山のマチナカに親しんできた。
石井さんは、2017年、この表町3丁目の商店街の中に、1Fが飲食店シミュレーション施設、2Fがシェアオフィスからなる『CO OMOTECHOビル』をつくりました。
石井さん 「表町商店街で100年以上続いていたお茶屋さんが、5、6年前から営業されていなかったところを、僕ら数人で買い取ってシェアオフィスにリノベーションしました。
僕がこの『CO OMOTECHOビル』に関わりはじめて3年半経ちます。その少し前くらいから、まちづくりというか、まちで使われなくなったものに少し手を加えたり、使いかたを変えることでまた新たな活かしかたが生まれることに興味を持っていました。そういう目で見ると、表町の南部は、商店街として少しずつ廃れていくなか、まだ手つかずだなと思いました。だったら僕がこのあたりでまちづくりしていこうと思いました。」
「CO OMOTECHO」2階のシェアオフィス共有部。石井さんがリノベーションを担当。(提供:THE BLUE WORKS)
お茶屋さんを改修したCO.OMOTECHO。1階は『半日から気軽にオーナーになれる飲食店のチャレンジショップ』、2階、3階は創業支援、経営支援付のレンタルオフィス、レンタルスペース、コワーキングスペースとして運営。(提供:THE BLUE WORKS)
地元の人たちは、商店街の栄枯盛衰を目の当たりにして「このあたりはもう良くならないんじゃないか」とエリアの可能性を諦めていたといいます。
石井さん 「けれど、若者や余所者の目線でこのまちを見ると、わりと自由にやれそうな雰囲気に感じるんですよね。
それは、家賃が下がってきたり、融通が聞いたり、古くなってきたからこそ、好きに手を入れてもいいよって許可が取りやすかったり。
一方で、ここは、昔から岡山で一番歴史のある商店街ということで、思い入れを持っているひとが多い街でもあります。親子何代にも渡ってこの地で商売をしているひともたくさんいます。
だから、いくら駅から遠くて不便でも、岡山のひとにとって表町は特別で、ブランド力があります。
僕は、このエリアで育ったわけじゃないですが、高校生の頃からこのへんで遊んでいたので、地元とまではいえませんが馴染みある場所でした。」
石井さんのまちとの絶妙な間合いは表町3丁目に新たな風を呼びます。
「表町」というセンターオブオカヤマをリスペクトしているからこそ、駅から近くはない立地条件でも人が求めるエリアであることを見極め、時代の移り変わりから地代が安くなった表町3丁目で、シェアオフィスが成立する算段をたてることができたのです。
また、このシェアオフィスは、ただの拠り所ではありません。
石井さん 「スタートアップの支援を目指しているシェアオフィスなので、ここを足がかりに事業が拡大していって、手狭になって旅立っていくような場所です。事業の初期に、家賃や設備などで借金など背負うことなく、挑戦できる場所をここにつくりたかったんです。
あと1階の飲食店のレンタルスペースは、ここでお店をチャレンジして、うまくいけば表町商店街周辺でまた出店してくれたらと思って。」
現在、1階にはおいしいお蕎麦屋さんが入店中。
空き店舗も目立つようになってきた表町商店街に新たに出店してもらうことで、表町商店街自体も豊かに。今まで遊休不動産だった場所がシェアオフィスとなり、そこから巣立つ人々がまた表町に店舗を構える。商店街の生態系がぐるぐる巡りはじめます。
そんな石井さんは表町商店街の物件のサブリースも手掛けています。
石井さん 「『ここは良い場所なのに使われていないのもったいないな』って思った物件をうちで預かって、店子の募集や管理を自ら行っています。僕自身が設計と工事を請け負えるので、物件の痛み具合を自分で見て判断できます。
自ら預かることで、この場所を使いたいと思うひとに届けやすくしたかったんです。まちのプレイヤーたちがまちづくりに挑戦しやすい環境がつくれたらいいなと思います。
けれど、そのためだけにやっているわけじゃありません。たまたまそのことが、僕の商売の利益にもつながるビジネスチャンスだと思っています。」
まちでは「石井さんに預けたら、商店街にとっても良いことになる」という声があちこちで聞こえてきます。表町3丁目のカオティックな多様性はこうやって保たれていくのだとも。
新劇場がもたらす新しい音楽、まちなかで漏れ聞こえてくるDJやライブの音、カフェのBGM、楽器屋さんの生演奏、呑兵衛たちの鼻歌。いま、表町3丁目は音楽と文化が溢れています。
表町3丁目、象が歩かなくても、いまも面白すぎるまちです。
次回は、石井さんから表町2丁目のナイス物件を手渡され、とんでもない“世界”をつくったひとに話を伺います。
石井正彦さんおすすめマチナカスポット
宝来軒
表町2-3-51
みんな大好き「まちの中華屋さん」。おすすめメニューは、てんこもりなのに秒で消える「焼き飯」で、具は肉かエビが選べる。石井さんは高校生の頃からよく通っているそうで、岡山の人たちが愛する郷愁の味。
手打ちそば なん野
表町3-5-15 CO.OMOTECHO 1F
CO.OMOTECHOビル1Fに昨年5月のコロナ禍でオープンした本格手打ちそば店。すでにファンも多く、季節に合わせた新鮮な素材と店主手打ちのそばが美しく盛り付けられ、目でも舌でも楽しめる。
聞き手:アサイアサミ
東京都出身。大学在学中、宝島社入社。雑誌編集者を経てタワーレコードのフリーペーパー「TOWER」の編集長を5年間務める。その後フリーランスを経て、2012年岡山県へ移住し、広告会社ココホレジャパンを設立。移住情報誌TURNS副編集長などを歴任し、地方地域、環境問題、ライフスタイルなどのジャンルを得意とする編集者として岡山で楽しく暮らしています。