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歩いて楽しいマチナカの「余白」は、みんなのリビングへ「西川緑道公園周辺」

まちを愛するひとのインタビュー その9 
『株式会社リール』『一般社団法人TOCOL』山下リールさん

歩いて楽しい岡山の、マチナカのど真ん中には南北にわたり「西川用水」が流れています。北は桃太郎通り、南は下井石井公園あたりまでの西川エリアは、周辺に飲食店が数百件密集する岡山の一大飲食店街でもあります。

「西川・枝川緑道公園」は、西川用水とその支流の枝川用水の両岸を緑道として整備した公園です。2.4キロメートルに渡る公園は多くの樹木が四季を彩り、噴水やテラス、ステージなど市民が憩うための場になっています。

マチナカにぽっかりある緑道では、マルシェやライブなどさまざまなイベントが開催しており、休日など「なにかおもしろいことやってないかな」と、のぞきに行くスポットです。

いま、西川緑道公園は大きな変化が生じています。周辺は分譲マンション建設ラッシュによる再開発の渦中にあり、今後「暮らすひと」が増えていくことを運命づけられたエリアであること。そして、新型コロナウイルスによって変化した生活様式によって、役割が変わりつつあること。

変化の渦中にある西川緑道公園のお話をきかせてくれたのは、西川緑道公園を中心としたまちづくり協力団体「西川エリアまち育て協議体(2021年4月1日「一般社団法人ぷらっと西川」に組織変更)」に関わり、このまちに人一倍愛情を注ぐ、一般社団法人TOCOL 代表理事の山下リールさんです。

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山下リール(Lille Yamashita)
1979年岡山市生まれ。2003年システム&デザイン会社『株式会社リール』を起業。2005年デジタル先端共創ラボ『TOCOL Lab.』を設立。岡山満月BAR発起人兼広報プロデューサーを4年務め、岡山市歴史まちづくり回遊社会実験「おかやま未来づくりプロジェクト@ハイコーチャレンジ!!」石山公園事業責任者となりRe.活用と石山月見カウンターを実現させる。2018年西川エリアまち育て協議体を立ち上げ、「住み手目線+事業者目線+パフォーマー目線」でエリアの未来を想像し、市民活動と行政をつなぎ、そのエリアを腐敗させるのではなく、協働で育てていくというエリアマネジメント(仕組みづくり)に奮闘中。

西川エリアコミュニティを「防災マップ」で再構成する

岡山に生まれ育ち、絵描きを目指して東京へ。学生時代にバブルがはじけ、就職氷河期ど真ん中で就職活動をし、失われた30年と呼ばれる時代を生き抜いてきたツワモノです。実は、筆者とタメ年で同じ大学だったという縁もあり、今回は文中で親しみと敬愛を込めて「山下さん」ではなく「リール」と呼ばせてください。

岡山へUターンし、自ら会社を起して、広告業からシステム開発、学習教材の開発まで幅広く手掛ける実業家でもあります。現在は、自らの事業を「株式会社リール」で行い、まちづくりなどに携わるときは「一般社団法人TOCOL」として活動しています。

リール「西川緑道公園やその周辺には約10年携わっています。自宅も西川緑道公園のそばに引っ越してきました。地元民という立場でもこのエリアでなにができるか考えています。
その目線で見ると課題だなと思うのは、西川エリアは徒歩圏内に学校のような大きな避難場所がないことなんです」。

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「ぷらっと西川」に掲載している防災マップ。

かつてマチナカには、深柢小学校(中山下)、出石小学校(幸町)、内山下小学校(丸の内)と3つの小学校がありました。西川用水を基点に東西で学区が分かれ、町を超えてエリアコミュニティが形成されていたといいます。

少子化と地方の衰退が進み、マチナカの小学校は岡山中央小学校として統廃合。岡山中央小学校は弓之町に設置され、西川エリアの避難場所としては遠方すぎて機能しません。

リール「西川の周辺エリアは町内会単位で歴史的にもいろんな活動をしていました。6つの町(本町・錦町・幸町・田町一丁目・磨屋町・平和町)も、今でこそ飲食店街という共通点はありますが、統廃合前の学区は異なり、みんな個々として点で動いていました。しかし、これからは点ではなく、面としてエリアで考えなければ生き残れません。
西川で協議体を立ち上げるとき、西川周辺と6つの飲食店街を「西川エリア」とくくって、新たなコミュニティにしていきたいと考えました。そこで、防災マップを備えた「フリーペーパーぷらっと西川」をつくりました。西川エリアと周辺の防災マップです」。

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リールが監修・制作した「ぷらっと西川」(日本語版/英語版)

観光客はもちろん、ここで暮らすひとびとのためにもつくられた地図です。観光向けのものは今までもたくさんつくられてきましたが、「暮らし」「コミュニティ」を重視したマップは初めて見ました。

リール「西川は、たくさんイベントをやってきましたが、イベントは一過性の「点」でしかありません。私も約10年、色々やってきたけれど、これだけではだめじゃな、と感じました。お客さんやお店だけでなく、住み手とエリア全体も巻き込みたいんです。
また「良いまち」にしていくには「地域の約束事」をまちのひとたちとつくっていくしかないと思いました。
まちの空気感は、そのまちに住んでいるひと、そこで事業をしているひとが醸し出すもの。いい店が集まっていれば、いいお客さんが来て、いいまちになっていくんだけど、逆もまた然りです」。

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イベントが多く行われる野殿橋近くのステージ。

住民が増えていくマチナカにとって、歩いて楽しいまちは「歩いて安全なまち」の前提に在ります。「防災」というまちづくりの観点は「助け合い」から成り立ちます。災害が比較的少ない岡山では「助け合い」の機会が少なく、希薄化するコミュニティへの意識を強くします。

楽しみを添加していくことに偏りがちなまちづくりのなかで、リールの取り組みは堅実にうつるかもしれません。しかし、ここで10年活動してきたなかでたどり着いたのは「コミュニティのちから」の必然性です。

道路や公園は、まちのみんなのレストランになる

西川緑道公園は市民にたくさんの楽しみを与えてくれる場所です。

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ジャズイン西川・サマーナイトライブ。

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満月の日に開催される満月BAR。

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年に1度、西川に入って大掃除をするイベント「西川クリーン探検DAY」。

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岡山県内の地酒や飲食店の自慢の料理を堪能できる「Eat up OKAYAMA 〜岡山を食べつくせ!〜」(下石井公園)。

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西川緑道公園の車道が歩行者天国になる社会実験も行われいる。これは子どもたちがおもいっきり車道に落書きをしたあとお掃除する様子。

私が岡山に住み始めたころ、西川にマルシェが並ぶさまを見たときは「ここはパリなの?」と感動したものです。

しかし新型コロナウイルスの流行によりイベントのたぐいは軒なみ中止に。周辺の飲食街も深いダメージを追います。もしかしたらマチナカで一番様子が変わってしまったエリアかもしれません。

リール「コロナ前は630以上の飲食店があって岡山市の飲食店街として岡山内外でPRしていきましょうというスタンスでした。コロナになってしまって、お店はどんどん潰れています。また、潰れた空き店舗にグレーゾーンぎりぎりの飲食店が入居して、まちの雰囲気や治安も不穏に。そういうまちになると、いいお店はどんどんよそへうつってしまいますし、住民とのトラブルも増えるから悪循環です。
飲食店さん応援イベントもしたけれど、これだけ長期化すると飲食店の精神力が持ちません。こちらとして、色々アイデアは出すけれど、それに応える体力が残っていないんです」。

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取材中、リールと一緒にまちづくりを支える「池田促成青果店」さんと急遽井戸端会議が。

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青空レストラン「おいしいこうえん。」です。

リール「なるべく経費のかからない方法で、みんなが外でごはんが食べられる方法を考えようと思いました。いま、行政が西川緑道公園や県庁通りを中心にテーブルと椅子を置いてくれています。

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県庁通りにあるパン屋「PUBLIC」の店舗前。

登録している周辺のお店に注文が伝わる専用サイトにアクセスし、メニューを選ぶと、外のテーブルまでごはんを持ってきてくれる仕組みです(※現在開発・試験運用中)」。

つまり、西川緑道公園周辺のベンチやテーブルから、オンラインで周辺のお店から注文ができて、ごはんが食べられるのです。屋外なのにレストランのように注文できるうえ、色々なお店のメニューが一緒に食べられるスペシャリティ。まち全体がみんなのテーブルに。楽しいうえ、感染症対策にもなります。

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岡山市役所が、拡張した県庁通りの歩道に設置したテーブルと椅子。

「一般社団法人TOCOL」でシステム提供をし、西川エリアまち育て協議体(4月1日から一般社団法人ぷらっと西川)が運営し、いままで2回の実証実験を行っています。

リール「まちを持続可能なものにしていくには、楽しいイベントも大事だけど、社会問題を解決することも大事。このまちが好きだからこそ、楽しくしたいし、まちが困っているなら解決したい。歩いて楽しいまちにするんだったら、まちの景色をちゃんとしたものにつくっていかないとね」。

そして、西川エリアのことを愛しているからこそ全力で叡智を働かせる。そんなリールが男前すぎてわたしはしびれました。

リール「そういば、10代20代に「西川どう思う?」って聞いたら「西川緑道公園ってただの道ですよね?」って言われたのが最近のカルチャーショック(笑)。
ずっとここに携わっていると自分たちは「ここは公園」とゾーン分けして、面として考えていました。「面」だと思うと、滞在させなきゃと思うけれど、道は「線」だから、そこに滞在しようという気にならないらしい。若者にとって、西川緑道公園は道で、そのことにハッとなったし、使えると思いました。若者の意見を聞いて、ここをもっと柔軟な場所にしていこうって」。

「面」だと考えると、非日常的なイベントを打って滞在してもらわなければヒトが集まらない。けれど「道」という「線」であれば、誰かの日常に寄り添える施策を、まちの魅力につなげたい。若者の声がリールさんのまちづくりに多大な影響を与えたのは前述どおりです。

西川用水は、江戸時代、池田藩の外堀でした。太平洋戦争時、岡山空襲によってこのあたり一帯が焼け野原になり、復興のグランドデザインの一環として、緑化したのがはじまりです。

リール「その当時、用水路は地下へ埋めることが主流でしたが岡山市はそれを「しない」と決めて、『「緑と花・光と水」のまちづくり』というスローガンを掲げ、用水路を生かした整備をすすめることになったんです」。

整備がはじまったのは昭和49年。約半世紀前の、私たちが生まれる少し前です。高度成長期後半、経済が右肩上がりだった時代の経済効率を考えれば、全車線車道にするべきところを岡山市は公園にしたのです。ずっとずっと前から、歩いて楽しい「余白」をつくってくれていたなんて、ちょっと胸アツです。(しかも令和の世にその余白が「リビング」になるなんて!)

道は、ヒトやモノが通り、どこかに向かうため、行きつ戻りつするところ。歩いてたのしいまちなのは、そこにいい道があるから。

西川緑道公園はいつだって市民にとってひかりあふれるみちであってほしい。そしてわたしたちはこの道をてくてく歩いて、岡山を味わい尽くす。それがまちを輝かせる最良の方法ではないでしょうか。

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歩いて楽しいマチナカの余白「西川緑道公園」

リールさんおすすめマチナカスポット

BAR OWLS
田町1-2-1
岡山のマチナカは良質なバーがたくさんあることでも有名ですがリールさんのおすすめは、食事が充実していてウイスキーの種類も豊富なバーオウルズ。はじめましてさんも入りやすい雰囲気が◎。
おでん 酒 こなや
平和町4-20
ほっこりやさしいお味のおでん屋さん。出汁のきいたネタは全制覇したくなるほどひとつひとつが秀逸。お酒の種類も豊富でつい長居したくなるお店。
flower shop Regalo
幸町5-14
リールイチオシのお花屋さん。マチナカでセンスのいい花束をさりげなく購入できるのがうれしいのと、22時までオープンしているので、急な祝い事やプレゼントにも対応できるので、気軽にお花を日常に取り入れられる。

聞き手:アサイアサミ
東京都出身。大学在学中、宝島社入社。雑誌編集者を経てタワーレコードのフリーペーパー「TOWER」の編集長を5年間務める。その後フリーランスを経て、2012年岡山県へ移住し、広告会社ココホレジャパンを設立。移住情報誌TURNS副編集長などを歴任し、地方地域、環境問題、ライフスタイルなどのジャンルを得意とする編集者として岡山で楽しく暮らしています。