岡山の生活者を潤す雑貨店「アクシス」のマネージャーがほがらかに住まう「出石町」での暮らし方
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、私たちの生活様式が変わって早3年が過ぎようとしています。特に政府が緊急事態宣言を発令した2020年の4月からの2ヶ月間は、生活の維持に必要な場合をのぞいて、外出の自粛などは鮮烈な記憶が未だに残っているひとも多いでしょう。
かつてない、暮らしの制限が解除になったとき、私が最初に行きたいと思ったところは岡山市北区田中にある「axcis nalf(アクシスナーフ)」(以下アクシスナーフ)「axcis CLASSIC(アクシスクラシック)」(以下アクシスクラシック)という雑貨屋さんでした。
この2店舗は「アクシス」という雑貨メーカーの直営店。ナチュラルなテイストの雑貨店「アクシスナーフ」は2009年にオープン。「アクシス」が企画・製造している雑貨はもちろん、日本国内外の暮らしのアイテムをセレクト。衣食住を彩るモノを提案しています。
そして2012年にはお隣に「アクシスクラシック」が開店。アンティーク家具やハウスパーツ、照明器具を主に取り扱っています。行くたび新たな日常の道具に出会える、本当にすてきなお店です。
自粛解除になってすぐわたしはウキウキでこの2店舗へいきました。そこで、閑散としたマチナカとは対照的に店内にたくさんのひとがいたことにとても驚きました。未知なるウイルスと対峙し、疲弊した岡山市民が思い思いに雑貨を手にとり買い物をしていたのです。
不要不急ではないはずの、「潤い」を求めるひとたちの姿を見て、日常の雑貨は私たち生活者にとって、かけがえのないものだと思い知ったのです。
まちを愛するひとのインタビュー2023 その11
『アクシス』打谷マキコさん
そんな岡山市民の心のオアシス、アクシスナーフとアクシスクラシックの開店当初からスタッフとしてお店に携わっているのが打谷マキコさんです。
マキコさんは岡山市生まれ岡山市育ち。生粋の「岡山市っ子」です。晴れの国で育まれたおひさまのような笑顔が印象的。京都の大学へ進学し、一人暮らしや旅、留学などを経て、旅行好きが高じてトラベル関係の内定が決まっていたにも関わらず、父親が創業した株式会社アクシスに就職します。
マキコさん「アクシスは創業から雑貨などの企画・製造メーカーですが、ちょうど私が大学を卒業する年に父(アクシスの創業者・大槻順一郎さん)が岡山に直営店をつくることを決めたんです。当時、雑貨屋ってめちゃくちゃ憧れの職業で私が「やりたい!」と手をあげて入社しました。
父と母の仕事を幼い頃からずっと見ていたし、雑貨に囲まれて育ってきたので雑貨と親しんできました。なにより、お客様に企画したものや良いなと思えるものを直接手渡ししていけるのは、とっても楽しいんだろうなとも想像できました。」
岡山のひとは、より良いもの、好きなものを求めている印象
アクシスがお店をはじめるとき「岡山で商売は大変だ」と周りの人たちから心配されたそう。昔から商売人の間で「岡山で商売が成功すれば全国どこへ行っても成功する」といわれる岡山ですが、アクシスナーフが開店すると、マキコさんは「家のものを買う人が思ったよりもたくさんいる!」と思ったそう。
マキコさん「岡山のひとはみんな、こだわりを持って、より良いもの、より好きなものを探していると感じました。そしてジブンのいる空間を慈しんでいます。正直、商売がやりづらいと思ったことはありません。
コロナウイルスの影響でお店を長期休業するなど、最初は本当にどうなっちゃうんだろうと不安でしたが、結果的には、より良い暮らしの提案が求められるようになったことを感じました。私たちも、コロナ前からお客様へもっと丁寧に提案したいと思っていたのでうれしかったです。
世の中の動きといえば、岡山は政府が「自粛してください」と要請があった途端、まったく動かなくなるし、解禁になったら、わぁっと動きます。世間の陽動とリンクをするんだなぁと思いました。世の中の動きに敏感で、流行がダイレクトに影響します。」
アクシスが岡山のひとに受け入れられた理由のひとつは、流行りも取り入れつつ、ここにしかないものがあるところ。そして、独自イベントや企画に力を入れることができるのも、メーカーとしてものづくりをしている軸があるからだといいます。
昨年末までアクシスはマチナカに新しくできた商業施設「杜の街グレース」にポップアップショップを出店。「マチナカにアクシスが来た!」と大盛況でした。
マキコさん「お客さまも「マチナカに支店を作って」とよくおっしゃってくださいますが、今の所その予定はないです。今の店舗はあの広さでさまざまな暮らしにフィットするご提案をさせていただけて、プラス、アクシスがやりたいイベントや展示もできて、空間を持つという意味では今の場所で大変満足しています(笑)。次、店舗を持つとすればショールームのような、もっと提案性の高い場でしょうか。」
心から良いと思えるものは便利なお店ではなく「わざわざ行くお店」だからこそ見つかるのかもしれません。そして、この「わざわざ行く」というキーワードは、岡山のマチナカ暮らしを豊かにするヒントが隠されていたりもします。
便利ではないけれど、楽しい出石町の暮らし方。
マキコさんが暮らすまちは出石町。城下町であり、風光明媚な岡山らしい風景を残すまちです。
マキコさんがこのまちで暮らし始めたのは10年以上前のこと。パートナー(打谷直樹さん)と、出石町に家を借ります。
マキコさん「借家ですが、DIYでリノベーションさせていただいて、薪ストーブなども導入していました。夫と結婚したあとも、このまちで暮らし、家族も増えました。
ある日、出石町の川沿いの土地が売りに出されると知りました。とてもいい場所に土地が出たので家を建てることを即決しました。昔からずっと川を見ながら住みたかったんです。」
借家の頃から暮らしの自由を大切にしてきた一家が建てた家は、出石町の古町の雰囲気を汲んだ自然由来の建材が目をひくデザイン。このまちに対するリスペクトを感じさせるステキハウスです。
そして、出石町周辺は岡山随一の観光名所であり、JR岡山駅から徒歩20分ほどの距離にあります。ハレとケが混在するこのまちでの、マキコさんの「暮らしかた」が気になります。
マキコさん「確かに大きなスーパーやドラッグストアなど近所には見当たりません。でもあまり不便を感じたことはないですね…?」
夫婦に加えて小学生と幼児を育てる4人家族が、不自由なくこのまちで楽しく暮らすにはコツがあるはずです。ぜひ伺いたい!
マキコさん「コツですか…。あ、この3年くらいで、好きなお店が周辺にたくさんできました!これは、夫がまちづくりに関わっていたり、好きなお店に不動産屋として周辺の空き店舗を紹介していてるからかもです。」
まさかの夫がフロンティアしていくフィールドをマキコさんが楽しむ超家庭内手工業?!スタイル。まちに自分がほしい機能をインストールしていくのは、たしかに確実な方法かもしれません。(大変そうですが)
マキコさん「あと個人的に、専門店で日用品を買って暮らしていけたらいいなぁと思っています。出石町はお肉屋さんや金物屋さんなど小さな商店を行っているところがあります。
野菜は、池田促成青果ラボ(本町)のような八百屋さんや、飲食店であるプレブナンやKawazu Brewing(出石町)がちょくちょく無農薬の野菜を売っていて、よく利用します。「今日はお刺身食べよう!」って思ったら、岡田鮮魚店(中央町)にお願いします。
Kawazu Brewingは金曜日に無農薬野菜が入荷して、その野菜を使った料理が出るんです。野菜の入荷日にごはんを食べに行って、野菜を見て新しいレシピ発掘もできるし、お店にリクエストして打谷家の定番メニューが生まれたり。週に数回、顔がみえる生産者の食べ物が近所で手に入ることは幸せなことです。
スーパーマーケットでお買い物ももちろんします。本当に便利ですし、うちは共働き夫婦なのでありがたいと感じていますけれど、歩いてまちのあちこちで買い物ができるって、岡山のマチナカだからこそなのかなと思っています。便利なだけでなく、お買い物そのものが楽しいんですよね。」
これこそがTHEマチナカのススメ。便利なだけがマチナカのよさではありません。アクシスの生活雑貨の「潤い」に似た、わたしたちの生活者の心を満たす暮らし方。そして、出石町で暮らす魅力は、こんなところにも。
マキコさん「出石町には町内会もあって、子ども向けの秋祭りなどもコロナ以前はありました。あと、ここで暮らしてびっくりしたのは、冬の夜の見回りです!あの「火の用〜心!」の掛け声は、人生ではじめて聞きました。サザエさんの世界でしかないと思っていました(笑)。昔からの暮らしを引き継いていこうとされている方々も多く暮らしている地域です。でも、新しく移り住んできたひともウェルカムという風通しの良い町内会なんです。」
子育てをしている母として、ひとの善意が感じられる「まち」にいることの安心感は格別だといいます。
最後にマキコさんが教えてくれた「最近ハマっていること」は、早朝、夫婦で岡山後楽園周辺を散歩することだそう。
マキコさん「家にいると、なんだかんだやることがあって、私も夫もゆっくり話す時間が取れないんです。とにかく家事など一旦脇に置いて思い切ってワッと外に出れば、お互い向き合うしかなくて、歩きながらいろいろな話ができます。それが、すごくいい時間なんです。家の周辺はお散歩コースが充実していて、それもありがたいなぁと思っています。」
マキコさんは、食べることが大好きなので器にこだわってみたり、子どもが大好きで良い食材を探してみたり、好きを大切に暮らしています。それは「これでいい」ではなく「これがいい」主体的な暮らしです。
便利なだけが「いいまち」の条件ではないはず。毎日を楽しく過ごすポテンシャルはいつだって、マチナカのあちこちにいつも在るのです。まちを楽しむ姿勢を、暮らしの主人公が持ち続けて、日々の暮らしを「わざわざ」楽しむ。そんなお作法をマキコさんから教えてもらった気がします。
みなさんは、さまざまな理由で岡山のマチナカに暮らしたり、訪れたりするでしょう。そこでもし「岡山にはなにもない」と感じることがあったなら、家の周辺を歩いてみる。気になるお店があったら入ってみる、などなど小さなトレジャーハンティングをしてみてはいかがでしょう。きっとあなただけの豊かさを見つけることができるはずです。そして、岡山市民はそれがとても上手だとアクシスが教えてくれました。
マキコさんおすすめスポット
聞き手:アサイアサミ
東京都出身。大学在学中、宝島社入社。雑誌編集者を経てタワーレコードのフリーペーパー「TOWER」の編集長を5年間務める。その後フリーランスを経て、2012年岡山県へ移住し、広告会社ココホレジャパンを設立。移住情報誌TURNS副編集長などを歴任し、地方地域、環境問題、ライフスタイルなどのジャンルを得意とする編集者として岡山で楽しく暮らしています。