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新たな拠点『NISHIGAWA TERRACE』のキーマンたちに訊く「岡山のマチナカに必要な複合施設とは?」
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西川緑道公園沿いに複合施設がオープンしました。総木造の建物は、緑豊かな緑道も相まってまるでマチナカに森が現れたよう。
しかし、日本の多くの地方都市は人口減少が進んでおり、既存の大型複合施設は来店者の減少、テナントの退店が相次いでいます。新しい施設を建設するよりも既存施設のリノベーションや活用を進めたほうが合理的という見方もあります。
いま、なぜ西川エリアに新たな複合施設を?
気になるあれやこれを、NISHIGAWA TERRACEオーナーの藤木茂彦さん、NISHIGAWA TERRACEの飲食店『ヴァインズ』プロデュース・運営の渡邉隆之さん、同じく『アグニ』オーナーシェフの小野淳一さんの御三方にお話を伺い「地域密着型の複合施設」の背景に迫ります。
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(左)小野 淳一(Junichi Ono)
1983年岡山生まれ。調理師学校卒業後、神戸のホテルに就職。その後岡山のイタリア料理店で働く。働いていたお店のシェフの交代に伴いイタリア料理からフランス料理に転向。2009年渡仏。パリのビストロ数軒とコートダジュールの二つ星で働く。2015年から日本に帰り、レストランレオーニ(岡山市)の料理長を務める。2025年、西川緑道公園沿いに自身のお店Agni(アグニ)を独立開業予定。
(中央)渡邉 隆之(Watanabe Takayuki)
1978年千葉県生まれ。大学と調理師専門学校を卒業後、東京のイタリア料理店で料理人・サービスマンとして働く。2011年に妻の故郷に近い岡山市に家族で移住。レストランレオーニ(岡山市)にて支配人兼ソムリエを務めたのち、2018年、ワインショップ&スタンド スロウカーヴを独立開業。『FESTIVIN』『ヴィナイオッティマーナ』などの全国的ワインイベントに参加出店しつつ、自身でも仲間と『ヴィノムオカヤマ』(2015~)を立ち上げるなど、自由なワインの楽しみかたを提案中。
(右)藤木 茂彦(Sigehiko Fujiki)
小学校から高校まで岡山市の西川緑道公園沿いで育つ。大学で地域計画学を学び、卒業後に車道を狭めて整備された西川緑道公園を見て感激。40歳を過ぎた頃西川沿いの自宅にUターン。ちょうどその頃発表された、岡山商工会議所の1KMスクエア構想に共感し、路面電車環状化などの活動に参加。今でも路面電車環状化と楽しく歩ける街づくりが中心部の基本構想と信じています。
西川緑道が紡いできた歴史を地元で見てきたオーナーの思い
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『NISHIGAWA TERRACE』は、岡山県産のヒノキを建物の柱と梁に使用して、雨水の循環やコンポストの活用、屋上菜園で栽培するハーブを施設の店舗で利用するなど「循環」がテーマ。
まずは「どうして複合施設を西川沿いに木造でつくろうとおもったのか」を伺いたい。NISHIGAWA TERRACEのオーナーである株式会社丸五の藤木茂彦さんは静かに語り始めます。
藤木さん「江戸時代、西川は旭川から水を取って南部の水田に水を送る農業用水路でした。そして、戦争でこの辺りは全部焼けてしまい、この地域は大きく変わりました。
私が高校生の頃、この場所は再び大きな転換期を迎えます。車線を減らして一方通行にして、緑地を作るという工事が始まったんです。当時の市長の発案で『水と緑と光』をテーマにしたまちづくりでした。」
大学で都市計画を学んでいた藤木さんにとって、この緑化計画は衝撃的でした。
藤木さん「全国のいろんな事例を知っていましたが、そのなかでも先進的でした。今思えば、この決断が今日の西川緑道公園の礎となりましたね。」
英断から40年以上の時を経て、西川緑道公園は市民の憩いの場として定着していきます。最近では市民主導のイベントも定期的に開催され、新たなコミュニティの場に育ちつつあります。
藤木さん「西川が豊かになったいま、ここで生まれ育った私が岡山のまちと関わり合っていく新しい1歩として、この場にふさわしい建物をつくることにしました。
建物の構造は木造と決めていました。自分の育った時代はいわゆる高度成長期で、小学校、中学校、高校のすべての時代に木造の校舎が解体されて鉄筋コンクリートの校舎に建て替わることを経験し、近代化のさ中になんとなく寂しい思いも感じていました。
岡山に戻ってきてから、古民家再生という技術に出会い、また、日本の豊富な森林資源が活かされていないこと、新しい木構造の技術がありながら、まだまだ使われていないことなどを知りました。単に好き嫌いの問題もありますが、施設を建てるなら木造にすることは私の中では大前提でした。」
イベント時は人が集う西川緑道公園ですが、日常的には「通り過ぎる場所」の印象がありました。しかし、西川に滞在したくなる空間を、と藤木さんの思いも相まって、みんなが集える公共の場が誕生しました。
新たな複合施設は、西川の豊かさが広がる森のような存在に
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循環する建物の店舗はさながら森に連なる「木」。木は枝葉を広げ、人々が集うことで生態系が育まれていきます。訪れる人々は鳥のように憩い、情報が行き交うことで新しい芽が生まれる。そして、その豊かなつながりが根を張り、大きな森へと成長していく。
つまり、ひとが集う店舗は魅力があるか、まちに必要かどうかも大事。NISHIGAWA TERRACEには、みんな大好き『slowcave』の渡邉隆之さんプロデュースの飲食店がテナントイン。期待が高まります。
「実は、この建物のコンセプトである「循環」は、僕が『ハレマ』に関わる中で深く考えるようになったんです。」と、渡邉さん。
渡邉さん「『ハレマ』は街に根付いた継続的なイベントです。岡山の生産者の方々と触れ合い、マチナカで農と食の循環を作り出す。そういった経験の中で、僕は、より岡山のまちのことを好きになって、自分が役割を担えるのであれば何かしたいと思っていたところに、このプロジェクトの話をいただいたんです。」
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渡邉さんの「役割」は、2つあるといいます。
ひとつめは、画期的な循環システムを持つNISHIGAWA TERRACEで、新時代の飲食店のあり方を模索すること。
NISHIGAWA TERRACEでは、雨水を貯める特殊なタンクがあります。集めた雨水は、ビオトープに流した後、バイオジオフィルターという自然のフィルターでろ過します。ろ過された水は屋上に送られ、そこから1階までのハーブや植物の育成に使用。
これだけでも画期的なのですが、さらに面白いのが生ゴミの循環で、建物の裏手にはコンポストを設置。各飲食店から出る生ゴミを建物内で処理します。
そこでできた堆肥は庭やハーブ園で使用したり、取引先の農家さんや近隣で野菜や花を育てている人々に提供。飲食店から出る事業系ゴミを減らし、持続可能な飲食店運営を目指します。
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このような循環の仕組みは近年注目される「リジェネラティブ(再生的)」な考え方を体現しています。「僕たちは、消費するだけでなく、新しい価値を生み出していく。それが循環の本質なんです。」と渡邉さん。
そしてふたつめは、自分の働く背中を後輩たちに見せること。
渡邉さん「僕もだいぶ年齢を重ねてきまして、全力で働けるのもあと数年です。飲食店のサービスなど僕の経験してきたことを、後進に伝えていきたい気持ちがあって、飲食店をやろうと思いました。」
名ソムリエでもある渡邉さんのサービスは岡山の宝。岡山のまちの食文化を継いでいく大事な志し。マチナカの複合施設は、歩いて楽しいまちの未来を繋ぐ場でもあるのです。
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NISHIGAWA TERRACEには4つの飲食店が入居します。オープンは段階的に行われ、最初に『やなぎ屋』(寿司店)が1月20日、続いて渡邉さんが監修する『ヴァインズ』が1月30日から営業を開始。2月14日には『レオーニ』元オーナーシェフとして知られる小野淳一さんの『アグニ』、そして3月3日にイタリアンバル『フィーゴ』がオープンする予定です。
伝説のフレンチ『レオーニ』で多くの食通を虜にした小野さんの『アグニ』、どんなお店になりますか?
小野さん「『アグニ』では、薪窯を使ったユニークなフランス料理を提供します。カウンターだけの空間で、お客様の目の前で炎を見せながら調理をします。ゆっくりと食事を楽しんでいただける場所にしたいと思っています。
フランス料理というと少し堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、みなさんに窯の炎をみながらくつろいでいただけるお店を目指します。」
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「循環」する建物での料理、一味変わったりするのでしょうか。
小野さん「むしろなにも変わらないんじゃないかなと思っています。「循環」は、当たり前のことを当たり前にやってるっていう感覚に近いのかなっていう風に僕の中では解釈しています。」
本来当たり前であるべき飲食店のあり方を体現した環境での料理。これは人気店になりそうです。予約が取れない、もしくは待機を覚悟しなければ……。そんなときは、渡邉さんが監修する『ヴァインズ』へ。従来の飲食店の枠を超えた場所になっているのだとか。
渡邉さん「『アグニ』待ちのときは『ヴァインズ』に来ていただけたら。本当に気軽に立ち寄って、軽く一杯飲んで、つまみを一皿だけ、というような使い方もできる。そんな自由な場所です。」
そして、3階は当面、レンタルスペースとして勉強会や展示会、小さなパーティーなどに使えるそう。屋上からは西川緑道公園の緑を一望でき、季節が良くなれば屋外でビールを楽しめる場所として活用したい、と藤木さん。
複合施設は、まちそのものを変える威力がある
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「マチナカに必要な施設とはなにか」という問いかけに、この複合施設はひとつの答えを示そうとしています。西川緑道公園に、循環型のライフスタイルという新しい提案を持ち込み新しい価値を生み出し続ける場所。そして、文化をつないでいく場所。
この場所が目指すのは単なる商業施設ではなく、都市のにぎわいを生み出す「触媒」となること。観光客には、岡山の魅力を伝える拠点として。ビジネス層には、仕事の合間にふと立ち寄れる心地よい場所として。そして地元の人々には、日常の中に溶け込む憩いの場として活性化につながっていきます。
公開インタビューで「この施設はバリアフリーですか?」という質問がありました。エレベーターなどの設備はないそうです。けれど、ないからこそ、困っているひとがいたら手を差し伸べ助け合う。そしてみんなで美味しいものを食べて笑い合う。そんな在り方の“当たり前”の循環が叶う場所へ。
NISHIGAWA TERRACEは、岡山のマチの様子を変えるかもしれません。
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Text:アサイアサミ(ココホレジャパン)
Photo:宮田サラ(まめくらし)、ココホレジャパン、NISHIGAWA TERRACE
NISHIGAWA TERRACE
北区田町1-8-28
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聞き手:アサイアサミ
編集者。東京生まれ東京育ち岡山暮らし。出版社の雑誌編集などを経て、2012年に岡山へ移住。地域の魅力を広告する会社「ココホレジャパン」を起業。紙媒体からコピー(言葉)、Web、写真、映像など、表現方法にとらわれず、社会を変革する良き事象を愛ある編集で情報発信を担う。竹中工務店とコラボして木のまちをつくる「キノマチプロジェクト」編集長、「ハレまちの暮らしかた研究所」など。