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KAMPでターンテーブルを回すドーナツ小町は中学校教員。DJ先生が語るマチナカと教育現場と子どものコト【奉還町】

「岡山の公立中学校の先生がKAMP(奉還町のゲストハウス)でDJやってるよ。DJネームはドーナツ小町!」とKAMP北島さんに教えてもらったのはこのインタビューのとき。しかもマチナカ学区の中学校に勤務中のセンセイとのこと。

教師といえば、一般的に公明正大で真面目な聖職者というイメージがあります。子どもたちが社会に出るのを助け、創造的に考えるように促し、一生続く学びを導く尊いお仕事です。

音楽とダンスが大好きで、マチナカでのびのびDJプレイしている先生が、マチナカへ飛び出していく直前の中学生を教えているなんて、それも最高にマチナカの良さにちがいない!

公私ともにマチナカの愉しみを生み出しているドーナツ小町さんに、岡山の子どものことや、マチナカの教育現場のリアルなどお話を伺っていきます。

まちを愛するひとのインタビュー2023 その17
ドーナツ小町

ドーナツ小町
岡山市公立学校教員。数学担当。岡山市出身。県内の大学を卒業後、岡山市の教員採用試験を経て、中等教育(中学校)教師に従事。昼は先生、夜はDJ。レコード収集が趣味。KAMPマンデーチルラウンジ「Cookies Donuts&coffees」レギュラー。岡山の各種クラブ、DJバーに出没中。また、友人とイベントを企画。

DJセンセイ、ダンスと音楽に明け暮れた学生時代にマチナカへ

KAMPに現れたドーナツ小町先生は完全にマチナカの若者。キラキラ笑顔が眩しい30歳です。岡山市生まれ岡山市育ち。学生時代はダンスに明け暮れる日々だったとか。

ドーナツ小町先生「実家は岡山市街地から少し南のところにある芳泉地区です。マチナカには高校生になったくらいからダンス関係でパフォーマンスをしたり、練習しに行きました。普通にマクドナルドに週4行ったり。ダンスに夢中すぎて、進学できる大学が限られちゃったほど(笑)。」

ダンスをきっかけに行動範囲が広がった学生時代。岡山の大学に進学し、そこから教師を志すきっかけが知りたいところです。

ドーナツ小町先生「もともと子どもが大好きで、子どもに関わる仕事がしたかったんです。理系に進学しましたがそれでも勉強は全然好きじゃなかったんですよ。子どもは好きだけど、勉強は不得意でしたね。

塾の先生は勉強を教えるのが得意じゃないと難しいけれど、学校の教員ならば、子どもとの関わりのなかで一緒に成長できるんじゃないかなって思って、教員を目指しました。」

先生が勉強嫌いなのはDJセンセイ以上に衝撃です(笑)。社会に出たドーナツ小町先生は、ダンスや音楽好きから派生して、KAMPの北島さんなど、岡山のマチナカで様々なプレイヤーとつながり、刺激になったといいます。

昨年行った日本一のロックフェス「FUJI ROCK FESTIVAL」

ドーナツ小町先生「たとえば、吉備中央町で「間(あわい)」というカフェをやっている夫婦がいて、元々、教員をしていたふたりなんですが、「やりたいことは教員じゃない」と気がついて、カフェをはじめたそうです。そんな自由な生き方もあるんだなぁって思いました。

あと、岡山には世界的に有名なブレイクダンサーが居たり、クラブも多いし、良いライブハウスもたくさんあります。県外に行かなくてもカルチャーが享受できたことは、いまだにすごいことだと思っていますし、わたしが岡山が好きな理由のひとつでもありますね。面白い人たちが岡山にはいっぱいいることを知れたのもよかったです。

私、勉強だけを教える教員にはなりたくなかったです。枠に囚われすぎないで、子どもたちにも『こんな選択肢があるよ!』って教えられるような先生でありたいなぁと思っています。」

昨年、美作市で行われたみつまた和紙づくり体験会に参加。「子どもたちの校外学習にいいかなぁと思って!県内のおもしろそうなイベントによく参加します」とドーナツ小町センセイ。

DJセンセイ、ファンキーかつ熱血教師!子どもたちからは「いろいろやかましく言ってくる教師だと思われてる」とセンセイは笑っていますが、子どもに、まちに、愛あふれるセンセイです。

DJセンセイ、「マチナカの子どもはほんわかしている」

マチナカノススメとしては、マチナカ中学校教員から見た「マチナカの子ども」がどんな子たちなのかも気になります。

ドーナツ小町先生「とりあえずヤンキーは皆無です(笑)。むしろみんなほんわかしていて社会に出たら大丈夫かって心配になるくらい優しい。

指示されたことはすっとできて、賢い子が多いんです。周りも見えている。でも自ら考えて積極的に行動することが苦手。ちょっとアホでも元気があるほうがいいかなと思う時もあります。殻を破ってやるときはやるぜ!みたいなのが理想です。

利便性の高いまちに住んでいるからか工夫しなくても暮らせるので、郊外の子よりも『生きる力』は弱いかもしれません。あと最近の子、給食を全然食べないんですよ!学年ごとの給食残飯を見ていると、食べ残しが多い学年ってやっぱり元気ないです。」

今の中学生はコロナ禍で対面が制限された「コロナ世代」。多感な時期をマスクで過ごし、イレギュラーな学生生活を送って来た子どもたちです。デジタルツールを使いこなすけれど、コミュニケーションが苦手だといいます。

公立の中学生は毎日6時間目まで授業を受け、18時頃まで部活動を行い、家に帰るのは19時前後。家と学校の往復でまちとの接点をもつのが難しいのも事実です。

それでも、「このまちに自分のやってみたいことに挑戦できる土壌があることを子どもたちに感じてほしい。全部届かなくてもいいけれど、雰囲気は感じて欲しい。そのきっかけをつくりたい」とドーナツ小町先生はいいます。

ドーナツ小町先生「わたし、授業中、授業進度に余裕があったらめっちゃ喋るんです。その理由は、私自身が学生時代、王道の職業や生き方しか知らなかったので、大人になったとき、職業の選択肢が全然ありませんでした。でも、実際にマチナカを見回すと色々な人がいるし、色々やってもいいんだよ!って知ってほしいなと思って。

総合学習*1の担当もしていて、マチナカと子どもをつなげたいと思う気持ちがめっちゃあります。コロナ禍でいろいろ難しい3年間でしたが、ボランティア活動などで校外に子どもを連れ出したいって思っています。

子ども時代にまちとの思い出がどれだけつくれるかがまちへの思い入れにつながるんじゃないかなぁと思います。家でも学校でもない、まちに子どもが安心していられる居場所があることって大事じゃないかなって。」

*1 正式名称「総合的な学習の時間」。自ら学び、自ら考える力や学び方、ものの考え方などを身につけ、よりよく問題を解決する資質や能力などを育むことをねらいとして、小・中学校は平成14年度から実施。

文部科学省HPより

たとえば、下石井公園を、マチナカ育ちの大人と子どもが世代を越えて「キシャコー(汽車がある公園)」と呼ぶような、そんな愛着の蓄積が、いまのマチナカをつくってきました。

子どもたちは、居場所があったと感じられるまちのことを「故郷」と呼びます。そしていま、岡山のマチナカを豊かにしているのは「故郷」を素敵な場所にしようとしている大人たちです。

マチナカで育つ子どもは、社会との接点が多く、機会に恵まれていると思われがちです。しかし実際のところ、子どもの世界は個々の興味から広がっていくといいます。興味を持つという能動的なアクションで、社会と接点を見つけた子からまちへ飛び出していくのです。

社会と子どもの接点を生むひとは、ドーナツ小町先生のように自分の好きなことをまちで思いっきり楽しんでいるひとだと思うのは私だけではないはずです。

DJセンセイ、マチナカ中学校の勤務実態について語る

まちのキーパーソンでもあるドーナツ小町センセイ。中学校教員といえば、2022年に文部科学省が小中学校の教員の働き方に関して調査を行ったところ、上限の「月45時間」を超える残業をしていた中学教員が8割近くにのぼっていたことがわかるなど、過労死待ったなしの過酷な仕事です。

ドーナツ小町先生「みなさんから『大変だね』といわれますが、私はそこまで大変さは感じていません。毎日変化していく子どもたちに対応していくので必死ではありますが、それがしんどいわけではないです。」

とドーナツ小町先生は笑顔でいいますが、帰宅時間は毎日20時前後だとか。

ドーナツ小町先生「以前赴任していた学校は勤務時間外、へたすれば22時くらいまで残業するのが普通でした。けれど、今の赴任校はめっちゃホワイトなんですよ。すごいですよ、20時にはほぼいないですからね、人が。 

18時半に部活が終わってそこから明日の授業の準備をしていたらあっという間に20時になってしまいます。ほんと最初は泣きながらやってました。うちの中学校の先生はみなさん、きちっとした身なりでビシバシ仕事ができて、 それなのにみんな早く帰るし。なんだここは!?って思っていました(笑)。」

マチナカの中学校がホワイトなのはまちとしても喜ばしいことですが、それでも20時まで残業はかなりヘビーです、センセイ。

ドーナツ小町センセイ「ヘビーかどうかは一緒に働く同僚の先生次第ってところも大きいです。これは一般企業でも一緒ですよね。私は、今いる学年の先生が最高すぎてストレスゼロで働いています。

以前、同僚の体育の先生と話したんです。『私、こんなんでいいんですかね』って。そうしたら『教師もいろんな人がおったらいいんよ』って言ってくださって。公立の中学校は、勉強を教えるだけの場所ではなくて、いろんな子がいて、いろいろな人生を歩む子どもがいる人間形成の場。だから、きちんとした教師もいれば、私みたいな教師もいてもいいとおっしゃられて、ほんと勇気が湧きました。校長先生もとても理解があります。」

「教師のしごとは楽しいです!」と元気そうなセンセイ。こんな先生に教えてもらいたい。

教員の働き方改革をめぐり、さまざまな省庁が議論を重ねていますが、センセイの働き方にも、あり方にも、“余裕”ができたら、子どもにもまちにも良い影響があるんじゃないかと思います。

ドーナツ小町先生「そのとおり!私は、絶対遊ばないと元気になれないので、ほんっっと無理やり自分の時間をつくります。教員も人生をエンジョイしないと、子どもにもエンジョイしろって言えないかも。」

DJセンセイ、福祉と教育と音楽と芸術のイベントを企画する

そして、先生自身もマチナカに飛び込んでいます。昼は先生、夜はDJというだけでアグレッシブなのに、昨年夏に医療福祉のNPO法人ubdobe主催の「WellCON in 岡山 〜 福祉と教育と音楽と芸術 - Midsummer Madness- 〜」※2というイベントにDJとして参加。
※2  コロナの影響で中止

「福祉と教育と音楽と芸術」をテーマに、トークセッションやワークショップ、DJプレイを融合させた、新しいコミュニティ形成の場をつくろうとしたんだとか。

ドーナツ小町先生「KAMPで繋がった、福祉関係のお仕事をされながら、DJもしていて、さらには好きな音楽のジャンルも似ているという共通点の多い岡さんという方のお誘いで、このイベントに関わらせてもらいました。

福祉は教育とともに興味のある分野です。そこに大好きな音楽や芸術をからめて、面白いことができたらいいねと話し合いました!

教育はもちろん、福祉にも興味があります。非常勤講師のとき、支援学校に勤めていたんです。支援学校って、学力をあげることが主目的ではなく、体験や日常を送ることに重きをおいていて。そこの生徒たちが本当に可愛くて、あのとき教師を続けようって決めましたし、特別支援学校教諭免許状もとりました。」

音楽が大好きでDJブースで踊りつつ、福祉や教育に従事して教壇に立つ公私を両立させているドーナツ小町先生だからこそ、社会課題とエンタメのハイブリッドで縦横無尽に対話できる場に関われたのでしょう。つくづく中止が残念でなりません。

ドーナツ小町先生「はじめてイベントを行ったのは、女子DJを集めてのイベントでした。その後、何度か弾き語りをする友達やビートボックスする友達と一緒にイベントをしました。これからも機会があればイベントをやりたいと思っています。

DJもそうですが『やってみなよ』って感じのラフな大人がまわりにいっぱいいて、KAMPなどに集まる人たちでゆるくつながれることが、自身の人生を楽しむ力になっています。」

文部科学省より、令和2年度から新学習指導要領で「社会に開かれた教育課程」を目指すことが掲げられました。

社会のつながりの中で学ぶことで、子供たちは、自分の力で人生や社会をよりよくできるという実感を持つことができます。このことは、変化の激しい社会において、子供たちが困難を乗り越え、未来に向けて進む希望や力になります。そのため、これからの学校には、社会と連携・協働した教育活動を充実させることがますます求められます。

文部科学省HPより

社会から切り離された学校のなかだけでなく、地域の多様な大人と接点を持てる環境を、学校現場がどれだけつくることができるかという試みは、すでにはじまっているのです。

つまり、ドーナツ小町先生は「ちょっと型破りな先生」ではなく、ただしく「新時代の教育者」の姿なのです。

先生の楽しそうな姿を通して、岡山の子どもたちの寛容な地域性を育めば、もっともっと岡山のマチナカが楽しくなる、そんな未来がはっきり見えてきます。

ドーナツ小町さんおすすめスポット

喫茶スナックひとみ
北区奉還町2−6−12
「ひとみおばあちゃんっていう80ぐらいのおばあちゃんがやってるんですけど、ほんっと元気で、こちらも元気をもらいます。こんなスナックもうないよって思うくらい昭和のスナックなんですが、ずっと続いてほしいです」

テンズバーガー
奉還町4-6-23
色々な種類のハンバーガーが魅力的なハンバーガー屋さん。手作りお菓子も定期的に販売。
「友達カップルがやっていて、いつも一生懸命仕込みをしています。近所の子供がいつも放課後寄り道して、学童のようになっているのもいい(笑)。」

ほうかん町 みつの
奉還町3-9-5
「私の1番好きな居酒屋さん!何を食べても美味しい。リーズナブル。全て美味しいので、おすすめは?と聞くと店長が怒ります(笑)。行けばかならず、知り合いがいるお店でもあります。」

聞き手:アサイアサミ
社会編集者。東京生まれ東京育ち。出版社の雑誌編集などを経て、2012年岡山へ移住し、地域の魅力を広告する会社「ココホレジャパン」を起業。大企業のマスメディアから自治体・地域企業の広報まで、ミクロとマクロを縦横無尽に横断しながら社会をより良くするための斬新でユニークでハッピーなコミュニケーションを編集。現在、竹中工務店とコラボレーションして木のまちをつくるプロジェクト「キノマチウェブ」や都市型自動運転船「海床ロボット」コンソーシアム、瀬戸内海のゴミを減らすために岡山のまちを楽しくする「どんぶらこリサーチ」などを展開中。