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夢も想いもこのまちで叶える。日常に寄り添うコーヒー屋「something like that」が岡山に移住して店舗を持つまで

岡山のマチナカには、数ある魅力に惹かれ、自ら選んだ暮らしを愉しんでいる人たちがたくさんいます。

岡山城と旭川が織りなす美しい風景、新しさとレトロさが共存する商店街、図書館や美術館などの充実した公共施設、まちにゆるりと流れる穏やかな空気、個性的でハイレベルな飲食店など……。

そして、まちの魅力に惹かれ、他所のまちから岡山へやってきて夢に挑戦する移住者もいます。

マチナカノススメの公開インタビュー第6回でお話を伺うのは、コーヒーショップ「something like that」の宮崎弘隆さんと宮崎あおいさん。彼らも、2024年3月に岡山へやってきた移住者です。カフェの間借り営業やマーケットへの出店を重ね、念願だった実店舗を2025年3月にオープン。

下石井公園で2024年12月に開催されたマーケット「ハレマ FARMERS MARKET」に出店しているおふたりに、店舗をもつ場所として岡山のマチナカを選んだ理由や、マチナカで商いを始めるまでのストーリーを伺いました。


まちを愛するひとのインタビュー2024 その20

左)宮崎 あおい(Aoi Miyazaki)
右)宮崎 弘隆(Hirotaka Miyazaki)
岡山市を拠点に活動しているスペシャルティコーヒーロースター。東京のコーヒーショップで約7年間経験を積み、 2024年3月に岡山へ移住。現在2025年3月を目標に実店舗の開業準備中。日本語だと「そんな感じ。」という意味の屋号「something like that」には、飲み手の自由な感性でコーヒーを楽しんで欲しいという願いが込められている。生産者が作り出す個性溢れるコーヒーを、そのキャラクターを活かしながらストレスなく飲み続けられる透明感が表現されるよう焙煎・抽出している。


日常の癒しをつくるコーヒー屋を目指して岡山へ

おふたりは東京の吉祥寺にあるコーヒーショップで約7年間の修行を積んだ後、独立するために新天地を求めて岡山へとやってきました。実店舗をもつ場所としてなぜ岡山を選んだのでしょうか。

あおいさん「東京にはとにかくいっぱいコーヒー屋があります。私たちがやりたいお店は、日常に根付いたコーヒー屋なんです。気分をあげたいときも落ち込んだときも、飲む人の日常に寄り添い、癒しを感じてもらったり、暮らしを豊かにしたりできる存在になりたいと思っています。

そういったデイリー使いなお店は、ありとあらゆるコーヒーショップが飽和状態の東京よりも地方都市の方が根付きやすそうだと思い、独立のタイミングで地方都市への移住を考えるようになりました。」

岡山に初めて旅行で訪れた際、岡山城と旭川の風光明媚な風景に惹かれたと話すあおいさん。

弘隆さん「岡山を選んだ決め手は、飲食店と客層のレベルの高さです。

僕たちは、豆の特徴や生産者の個性がストレートに表現されるスペシャルティコーヒーを取り扱っています。酸味のあるコーヒーに馴染みがないひとの中にはスペシャルティコーヒーにネガティブな印象をもつかたもいるため、受け入れてもらえる地域も限られているなと思います。

一方、岡山は質の高い生活を楽しんでいるかたが多い印象で、飲食を楽しむ土壌がすでにある岡山なら、僕たちが淹れるコーヒーを好んでくれる人がいるかもしれないという可能性を感じました。」

産地の個性が活きるよう自家焙煎された「something like that」のコーヒー豆。


岡山旅行で感じたスペシャルな飲食体験

弘隆さんとあおいさんが岡山のマチナカレベルの高さに触れたのは、2020年に1泊2日で訪れた旅行のときだったといいます。

弘隆さん「僕らは、旅行のときいつも以上に気合いを入れて飲食店を探します。どの地域にもおいしい飲食店はありますが、岡山は特に行きたいところが多くて、次々に候補が出てきたのを覚えています。」

あおいさん「そのとき旅行で訪れたのが、私たちが移住するきっかけになった、京橋町にある『悦酒有知残』という居酒屋です。

料理がおいしいのはもちろん、店主さんや常連さんがはじめて訪れた観光客の私たちに分け隔てなく接してくれて、あたたかい雰囲気に魅了されちゃいました。」

自分たちがやりたいコーヒー屋のコンセプトと、先人たちによって耕された飲食の土壌が合うと直感的に感じたおふたり。岡山での、スペシャルな飲食体験が、弘隆さんとあおいさんを軽やかに岡山へと導きました。


つながりが連鎖し、あたたかい“おせっかい”が溢れるマチナカ

旅行から4年後の2024年3月に移住。縁もゆかりもない岡山での活動をスタートさせた弘隆さんとあおいさん。待っていたのは、岡山で暮らす人たちとの心地よいつながりでした。

あおいさん「表町にあるバー『River』の店主さんが、私たちが移住する前からオンラインでsomething like thatの焙煎したコーヒー豆を買ってくださっていたんです。移住してすぐにお会いしたいと思い、『River』へ行きました。

そのときに、自分たちのお店ができるまで間借りで営業させてくれるところを探している話をしたら『火曜日は営業してないから、うちを使っていいよ』とおっしゃってくださって。なんて優しいんだろうとびっくりしました。」

『River』の定休日に間借り営業をするおふたり。毎週足を運んでくれる常連さんもいるのだとか。

弘隆さん「いま焙煎している奥田西町の『コーヒーノマナビヤ』も、移住後のご縁が繋いでくれた場所です。間借り営業をしているときに、『コーヒーノマナビヤ』を運営するキノシタショウテンのスタッフさんが遊びに来てくださり、焙煎機をお借りできることになりました。」

『コーヒーノマナビヤ』で行う自家焙煎の様子。

岡山は、2011年の東日本大震災以降、災害が少ない移住先として注目を集めたエリアでした。その間に移住してきた人も、元から岡山に住んでいる人も、まちぐるみで新参者を受け入れる雰囲気が醸成されたのが今のマチナカです。

馴れ合いすぎず、活動は個々にのびのび。けれど困ってそうな人や、一緒に楽しいことができそうな人がいたら声をかけ、自然とあたたかいおせっかいができてしまう人が多いのも岡山の魅力です。


異業種と出会えるマーケット「ハレマ FARMERS MARKET」へ出店

今回の公開インタビューの会場「ハレマ FARMERS MARKET」は、岡山の生産者と飲食店がそれぞれの“おいしい”をみせあうポップなマーケット。「something like that」が「ハレマ FARMERS MARKET」へ出店することになったきっかけは、ナチュラルワインショップ「スロウカーヴ」へ飲みに行ったときのことでした。

2024年12月15日に「クリスマスと、年末準備」をテーマに開催された「ハレマ FARMERS MARKET」。

あおいさん「ハレマの運営に関わる、スロウカーヴの店主である渡邉さんに声をかけていただきました。これまで、農家や飲食店など異業種のかたと一緒に出店できるマーケットは新鮮で、誘っていただいてうれしかったです。

間借り営業してるだけでは出会えないお客さまや飲食店とのつながりもできて、毎回ハレマというハッピーな空間でコーヒーが提供できてすごく楽しいなと感じます。」

「ハレマ FARMERS MARKET」でコーヒーをドリップする弘隆さんとあおいさん。

弘隆さん「今日は、ハレマ限定でクリスマスをイメージしたコーヒー豆を2種類販売しています。

通常販売しているコーヒー豆と農園は同じですが、クリスマスっぽい味わいをイメージして焙煎してみました。寒い季節の夜に光がぽっと灯っているような、そっと毛布をかけてあげるような、温かみがある雰囲気に仕上げています。」

焙煎とはコーヒー豆を通じて、焙煎者が感じたことをおすそ分けする行為。おふたりのメッセージを受け取りながら岡山のマチナカでコーヒーを飲むことができるのも、ハレマで顔をみせあいながらコーヒーを買った人の特権です。


東京では得られないハレまちな暮らし

移住後、おふたりのライフスタイルや住環境にもうれしい変化があったといいます。

あおいさん「やはり、新たに出会った人々とのつながりは大きな変化です。色んなかたが気さくに声をかけてくれて繋がれるのは岡山ならでは。気づいたら周りに気心の知れたお客さまや飲食店のかたがどんどん増えていました。」

弘隆さん「ふだん暮らしている中でやはり岡山って晴れの国だったんだと実感します。明らかに雨が少なくて、洗濯物が乾きやすい!飲食店は天気によってお客さまが左右されるので、雨の日のお客さまの変動も減るのかなと思います。」

あおいさん「家賃が下がって家と働く場所が近くなったのもうれしいです。天気の良い日に自転車で旭川沿いの河原をスーーーっと走りながら通勤するだけで最高の気分になります。」

あおいさんがお気に入りだという旭川沿いの通勤路。

弘隆さん「飲みに行くのが好きなので、終電が早いのには少し困りますけど(笑)。スーパーの産直市場も東京に比べて充実していますよね。岡山にきてから柑橘類でシロップをつくるようになりました。お店の提供メニューにハレマに出店する農家さんの食材を使ってみたいという憧れもあります。」

おふたりが実店舗をもつための場所としてぴったりだと感じた岡山のマチナカは、働き方や暮らしにおいても愉しさをもたらしているようです。


岡山のコーヒー屋といえば「something like that」を目指して

現在はオープンに向けて工事中。2025年3月には表町に実店舗をオープン予定です。

弘隆さん「出店場所を選ぶ際は、移住後にマチナカを歩きながらどこが良いかをイメージしました。駅前よりはもう少し暮らし寄りで、表町や野田屋町、内山下あたりで店舗を何軒か見に行き、ご縁があってオランダ通りと表町商店街の間にある物件に決めました。」

子どもからおじいちゃんまで、多様な人が行き交う表町のオランダ通りの風景が好きだという弘隆さん。

店舗の内装を手がける空間デザイナーも、物件を仲介した不動産屋も、間借り営業中に足を運んでくれたお客さまだったそう。

そして公開インタビューにも、不動産屋さんや設計士さんなど、something like that応援団(?!)が駆けつけていました。

すっかり岡山のマチナカに溶け込み、まちの一員としてコーヒー好きの愉しみをつくっている「something like that」。最後に、店舗がオープンしてからの展望を教えてもらいました。

あおいさん「岡山のコーヒー屋といえば?と訊いたら名前があがるようなコーヒー屋になりたいです。どの県にもひとつは土地を象徴するようなコーヒー屋があって、私たちもそのコーヒーを楽しみに旅行しています。そんなふうに、私たちのコーヒーを飲む目的で岡山に来てもらえるひとが現れてくれたらうれしいです。」

弘隆さん「僕たちが岡山で活動を始めるときに、間借り営業をさせてくださったりお店に顔を出してくれたり、周りの飲食店のかたにすごく助けていただきました。みなさんの応援があっての今なので、僕らも実店舗がオープンしたら、これから移住するひとや開業するひとの力になれたらと思います。」

ぽかぽかの青空のもと、和やかなムードで行われた公開インタビュー。

マチナカの一角でまもなく夢を叶える「something like that」の弘隆さんとあおいさん。自分たちらしいコーヒー屋を開業するために岡山へ移住し、マチナカの飲食店とつながったことで「いつか自分のお店を持ちたい」という想いを光の速さで実現しようとしています。

数珠つなぎのようにご縁が広がる岡山のマチナカは、想いを持って何かを始めたい人を歓迎する優しくてふところが深いまち。これからオープンする「something like that」の実店舗が観光客やマチナカに暮らす人々の拠り所となり、そこで築かれる新しいつながりが、マチナカをまた楽しくしてくれるような気がします。

インタビュー:アサイアサミ(ココホレジャパン)
Text:岩井美穂(ココホレジャパン)
Photo:宮田サラ(まめくらし)、ココホレジャパン

something like that
北区表町2-2-5
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20205年3月 店舗オープン予定

聞き手:岩井美穂
ライター・編集者。1994年生まれ、福岡県出身。父が転勤族だったことから幼少期は九州内を転々とし、新卒で上京。その後、名古屋や、北海道で働く。制作会社・まちづくり会社を経て、2023年7月に岡山市へ移住し、ココホレジャパンに入社。まちの文脈から生みだされるローカルな暮らしやご当地なモノ・コトが好きで、編集・ライター業を中心に地域の魅力を発信しています。