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マチナカを飲み歩きイベントで盛りあげる「和酒Bar Iwatsuki」オーナー岩月さんは岡山の食文化を守りたい【磨屋町】

岡山は4年ぶりに「岡山さくらカーニバル」が開催されるなど、マチナカに楽しいムードが漂っています。夜も出歩きやすいちょうど良い気候もあり、夜のマチナカも賑わっています。

通人に評判の日本酒バー「和酒Bar Iwatsuki」のオーナー・岩月崇浩さんは、コロナ禍でもっとも多大な影響を受けた業種のひとつである飲食店経営者であり、岡山市中心部で食べ飲み歩きを楽しむイベント「ハレノミーノ」や、県内の酒蔵と岡山市中心部の飲食店がペアを組みはしご酒ができるイベント「ちどりあし」の主催者です。

日常が戻りつつあるいま、岩月さんがまちでイベントをはじめたきっかけや、自身のことを伺い、マチナカの愉しみを再確認したいと思います。

まちを愛するひとのインタビュー2023 その15
和酒Bar Iwatsuki 岩月崇浩さん

岩月崇浩(Takahiro Iwatsuki)
「和酒Bar Iwatsuki」オーナー。岡山市庭瀬出身。大学在学中より岡山市中心部で飲食店で働きはじめ、飲食店経験を重ねる。2008年に独立を志し、2009年の5月に岡山市民におなじみ“ゴリラビル”の2階に「和酒Bar Iwatsuki」をオープン。飲食店経営の傍ら、マチナカのイベントに関わり、「ハレノミーノ」実行委員長、「ちどりあし」プロジェクトなどを取り仕切る。プライベートでは2児の父。

ゴリラがぶらさがっているビルで日本酒バーをはじめる

岡山市と倉敷市のちょうど中間あたりにある庭瀬で生まれ育った岩月さん。マチナカと関わりを持ち始めたのは大学生のとき。「ホテルグランヴィア岡山」のレストランでウエイターのアルバイトをしていたそう。その頃からマチナカへ飲みに行くように。

岩月さん「目上の方々によくバーに連れて行ってもらったんですよね。すごくかっこいいなって思いました。自分もいつかなにかのお店をやりたいなって思ったのが最初ですね。」

そこから、ホテル、レストラン、和食店など飲食店勤務経験を経て、30代を迎えた頃、転機が訪れます。

岩月さん「忘れもしない、清原和博選手の引退試合があった2008年。勤めていた飲食店を諸事情で辞めるかどうかの瀬戸際で「いま辞めたら僕、清原の引退試合を観に行けるやん」って、うれしくなっちゃって、あっさり辞めてしまいました。

けれど、引退試合を大阪ドームで観終わったら当たり前ですが暇になりました(笑)。表町の「カラパン」というイタリアンでお手伝いするようになって、そこから自分でお店をやろうと物件を探しました。」

見え隠れする野球愛と人生の転機。いまIwatsukiのある通称・ゴリラビルは、このとき最初に内見した物件だったそう。「ゴリラがぶらさがっているビル、といえば、みんながわかるので、手っ取り早い」と思って決めました。

岩月さん「『和酒Bar Iwatsuki』がオープンしたのは2009年の5月なので、今年で14年目です。
商売するのが難しいといわれている岡山でよく続いたなと思います。儲かってないですけど(笑)。以前、このインタビューで登場した『バー コントワール』園田浩也さんは、僕の中学生時代の野球部の1つ上の先輩です。」

園田さんをはじめ、ゴリラビルの周りに知り合いのお店も多かったことも決め手のひとつに。そして、何十年とこのまちで飲み歩いた岩月さんは、磨屋町は飲食店が商売しやすいという印象があったそうです。

岩月さん「知り合いが来るだけの隠れ家バーをやろうと思ったんです。最初はみんな来てくれてるんですけど、やはり知り合いだけでは3ヶ月も持ちませんでした。早々と隠れ家バーは止めて、お店の情報を『タウン情報おかやま』に載せてもらいました。

実は僕、当時、日本酒を全然知らなくて、そのくせに日本酒バーを始めたんです(笑)。不特定多数のお客さまが来店するようになると、日本酒好きのマニアックなお客さんにけちょんけちょんに言われました。『明日潰れる』って。

すごく悔しくて猛勉強しました。同じようなお店に行って、どこから日本酒を仕入れているのかなどを聞いたり、酒蔵までに足を運ぶようになって、通好みの日本酒をお店に並べられるようになりました。」

お店を育ててくれるのはお客様だと実感したといいます。そして、多くのひとにお店の存在を知ってもらうことの必要性を感じた岩月さん。けれど、雑誌やテレビで宣伝広告をするのは違う気がする…。そんな岩月さんが、飲み歩きイベント「ハレノミーノ」に関わるのは2011年のことです。

来店きっかけを生むイベント「ハレノミーノ」と「ちどりあし」

岩月さん「うちの店は第2回から参加しました。あの頃、園田さんが実行委員会のひとりで、第1回のとき、『うちの店も参加させてください』ってお願いしました。

最初の頃のハレノミーノは、5枚綴りのチケットを購入して、1チケットごと前売り700円当日800円で、お値段以上のフードとドリンクのセットが楽しめます。

ハレノミーノに参加してから、知らないお客さんがいっぱい来店してくださるようになりました。ハレノミーノをきっかけに一見さんも入りやすくなったことで、いろんなかたにお店を知っていただけました。特にうちなんて、表に看板もないですし、店の扉は僕も開けたくないようないかつい扉だし(笑)。」

入りづらいお店もイベントだと思うと気軽に入店できるのが「ハレノミーノ」のよさ。敷居の高いお店でもファンをつくるきっかけづくりができるのです。イベント参加者はおトクに楽しくはしご酒ができて、お店はご新規さんを獲得できる。双方が嬉しく楽しいイベントです。

岩月さん「実は僕、いま、ハレノミーノの代表なんです。

以前『自然派ワインのお店 プレヴナン』のソムリエの山本さんが代表をされていたのですが『岩月くん、もう僕はできないから代表になってくれない?』って引き継ぎました。最初は本当に大変で、山本さんの意地悪かと思いました(笑)。」

岩月さんが代表になってキャッシュオンシステムに変更するなど参加店舗もイベントが愉しめるように工夫を重ねた。

回数を重ねるごと(岩月さんのご苦労も重ねるごと)にマチナカでファンを増やしたハレノミーノですが、2020年コロナ禍へ突入。第10回以降、本家ハレノミーノは現在休止中。しかし2022年11月に派生イベント「ハレノミーノokayamaしろうち」がエリア限定で行われ、その大盛況ぶりはハレノミーノの復活を待つファンたちの熱量を感じさせました。

岩月さん「僕自身、イベントをやる上で一番思っているのは、単発的なものにしたくないってことです。」

そんな岩月さんの思いから生まれたのが「ちどりあし」。県内の酒蔵と岡山市中心部の飲食店がペアを組み、参加店舗ごとに岡山の地酒とおつまみを500円で楽しめる、日本酒好きにはたまらないイベントです。

岩月さん「『ちどりあし』では、ペアを組んだお酒は必ず、1ヶ月から半年間、その酒蔵の酒を使い続けるっていう決まりもあるんです。」

岩月さん「広島で『地ぐ酒ぐ(じぐざぐ)』というイベントをやっていて、岡山でもできるなぁと、相談させてもらってはじめたのが『ちどりあし』です。
ペアを組んだ店に、酒蔵の方も一緒にお店に立ち、日本酒のことをあれこれ聞きながら飲めるイベントです。店と酒蔵のペアは、飲食店同士で酒蔵のドラフト会議を行います。紙に希望する酒蔵を書いて箱に入れるんです。プロ野球のあれと同じです(笑)。
これがまた駆け引きなんですよ。人気の酒蔵は競争率が激しくて抽選になるんです。それを避けるために中堅の酒蔵をみんな狙って、結局くじ引きになったり。」

野球愛が岡山の日本酒業界をイノベーションに導いているかも?基本、自分が楽しくてやっているという岩月さん。

日本酒を通して、岡山のことを知ってほしいから

岩月さん「日本酒バーをやりはじめて幸運だったことの1つに中国・四国には旨い酒蔵が多いってことがあります。

『ちどりあし』を始めたのも岡山のお酒を知らない人が多いなと思ったことと、宣伝ベタな酒蔵が多くて、お客さまと造り手をつなげたかった思いがありました。

旨い酒蔵のお酒をいろんな人にも飲んでもらいたい、発見をしてもらいたいって気持ちもありましたね。」

ちどりあしの様子。

コロナ以前は、観光客や出張帰りのサラリーマンなどが岡山の地酒を飲みたくてIwatsukiを訪れたといいます。最近、状況が落ち着いたことでまた県外のお客様が増えてきたので、岡山の旨い地酒をバランスよく置くようにしているそう。

岩月さん「昔から日本酒は、土地の食べ物に合わせて造っていたと思うんです。例えば、海に近いところであったら、 魚の煮付けとか、そういう地のものを食べながら飲むような日本酒が多いイメージなんですよ。

だから、岡山の地酒は岡山で飲むのが一番旨い飲み方じゃないかなって。うちは日本酒バーですけど、岡山の旨い食事も用意しています。

バーらしからぬ、充実のお食事メニュー。

日本酒は、その土地そのものを表す飲みものだと岩月さん。岡山に訪れるお客様はもちろん、岡山に住むお客様にも楽しんでほしい。岡山の良さをしみじみ感じることができるから、と。

岩月さん「日本酒は、もう本当、知れば知るほど楽しいのでみんなハマると思います。お店に来ていただいて、お好みをご相談してほしいです。

僕は、味はもちろん日本酒が持つ背景を伝えたいんですね。このお酒はどんな人がつくっていて、どういう場所で醸造されて、と思い浮かべながらお酒を飲むとやっぱり違うと思うんです。それがマチでお酒を楽しむ醍醐味の一つじゃないかと思います。」
「日本酒好きになると、地域も好きになるんですよ」と岩月さん。来店してほしい!という思いからイベントを企画した岩月さんですが、コロナ期間中に「家飲みの勧め」というyoutubeのライブ配信を行いました。なぜ飲食店の人が<家飲み>のススメを?!

岩月さん「緊急事態宣言中、なにかやらなければという思いからでした。みんなにお酒を飲むのを忘れないでほしかったんです。

飲食店と酒販店と酒蔵のコラボでやりましたが、みんなに褒められました。酒業界はこの3者は分断されていて、つながるべきところがつながってないんです。だからこれを機につながってみんなにお酒をススメたいなぁと。」

その時々で必要だと思うことを実行していく。それが、岡山の飲食業界の灯りを絶やさないことにつながる。岩月さんは、それを「楽しく」やっているのが印象的です。

岡山の食文化をこのまちで育てたい

そんな岩月さん、「ぷらっと西川」や「岡山飲食業協同組合」にも所属し、まちづくりにも携わっています。

岩月さん「ぷらっと西川の池田さんとはハレノミーノの実行委員などで知り合いまして、いろいろ一緒にやらせていただいています。あるとき『岡山飲食業協同組合を作りたい』と池田さんに相談を受けました。紆余曲折あって、理事をさせていただきまして、いま、組合員は全部で60店舗ぐらいです。

『岡山飲食業協同組合』の目的のひとつに、岡山は、全国でも有名な食材が結構あります。フルーツや牡蠣など美味しいですよね。そういう、岡山人しかわからない、もしくは岡山でも知らない人が多かったりする岡山の食文化を食を通して全国発信したいと思っています。
岡山は食文化において、熱しやすく、冷めやすい土地なんですね。最初はぐっと食いついてもすぐ冷めちゃうんです。そんな食文化の掘り下げを僕らがやったらいいんじゃないかなと思っていて。組合で今年やろうと話しているのは、岡山の『とりめし』をフィーチャーしようかと。唐揚げを切ったやつが上に乗っかってて、甘い辛いタレがかかっているやつです。

実はこのごはん、岡山にしかないんですよね。『ここにしかない』など極端じゃないと名物にならないと思うんです。」

とりめしは、唐揚げをあまからだれにくぐらせ、半分に切ってのりごはんの上にのせるどんぶり。※写真はIwatsukiさんのとりめしではありません。

食文化をちゃんと見つめ直し育てるひとは、いそうでいません。その役割を岡山のマチナカの飲食店が実感を持ってやることはとても意義があると感じます。

岩月さん「正解がわからないのが本当のとこなんですよね。

広島のお好み焼き、大阪のお好み焼きとか、明石焼きであったりとか、そういう名物を今から作るのって本当にしんどいと思うんですよ。だったら、今もあるソウルフードと呼ばれるものを広める方が良い気がしています。

僕らが、とりめしを広めたり研究をしていって、いつか、岡山で生まれ育つ子たちが「とりめしといえば、唐揚げ!」と思う。そうやって文化が続いてくといいなと思っています。」

最後に、岩月さんに、商売をするマチナカの魅力を伺いました。

岩月さん「やっぱりいちばん良いのは西川緑道公園ですね。まちの繁華街にあのきれいな川が流れているってなかなかないです。川上から川下まで歩いていくと、町並みがどんどん変わっていくっていうのも面白いと思います。

僕は春の訪れを西川緑道公園で感じるんです。このへんでいちばん最初に咲く桜があるんですよ。本町プラザの前あたりに咲いてる桜なんですけど。どこよりも早く桜が咲くんです。

3月下旬でもう咲き始めていた本町プラザ付近の桜。

秋は金木犀の香りが漂うので、秋の時期が来たなぁって思います。飲食店が多い街なのに、こんなに自然を身近に感じるとこなんてないと思います。季節の移ろいを感じながら、飲食店ができるっていいですね。西川緑道公園の近くで店を出した者の特権です。」

訪れるひとはもちろん、ここで働くひとも幸せにしている西川エリア、大切にしたいまちです。

4月29日土曜日には、西川緑道公園の野殿ステージ周辺で岡山の満月の夜、突然現れるBAR「岡山満月BAR」が開催されます。日が長くなったマチナカの夜を楽しめるイベントが久々に行われます。お料理は、西川エリアの飲食店へWEBアプリを使ってオーダーし、デリバリーしてもらう最新仕様です。
また、この日は西川キャンドルナイトも同時開催です。

マチナカの飲食店の思いを乗せた飲み歩きイベントで、マチナカの楽しさを満喫しましょう!

岩月さんおすすめスポット

ラーメン大好きという岩月さんのおすすめラーメン店。

麺酒一照庵
中山下1-7-16 三晃ビル1F

とんとん
倉敷市下庄624-2

ちなみに、岩月さんに「岡山ラーメン」の定義を伺ったところ「基本は豚骨醤油です。岡山市中心部ですと「あまいからい(駅前町2-2-1)」などが岡山ラーメンだなと思います。」

聞き手:アサイアサミ
社会編集者。東京生まれ東京育ち。出版社の雑誌編集などを経て、2012年岡山へ移住し、地域の魅力を広告する会社「ココホレジャパン」を起業。大企業のマスメディアから自治体・地域企業の広報まで、ミクロとマクロを縦横無尽に横断しながら社会をより良くするための斬新でユニークでハッピーなコミュニケーションを編集。現在、竹中工務店とコラボレーションして木のまちをつくるプロジェクト「キノマチウェブ」や都市型自動運転船「海床ロボット」コンソーシアム、瀬戸内海のゴミを減らすために岡山のまちを楽しくする「どんぶらこリサーチ」などを展開中。



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